大麻の急性効果

大麻の医療利用を考えるにあたり、その速攻作用のなかでもっとも大きな不安となるのは、間違いなく精神活性効果だろう。これまで調査の対象になった医療利用のケースの多くで、患者が大麻を受け入れがたいものとして拒絶した主な理由として、好ましからざる精神的な副作用が挙げられている。

概して大麻を吸った経験のない患者はその陶酔効果を不安に思い、こうした患者の場合に、大麻は脅威的な恐慌発作や不安発作を引き起すことがある。
単に毎日の仕事にとりかかるさいにハイ(精神的高揚)の状態にあることを望まない患者もいるだろう。大麻が短期記憶など認識機能にもたらす有害な効果は、注意力を維持し込み入った情報を操作し処理する能力を求められる職種の人間の場合、とりわけ大麻を受け入れがたいものとしている。

大麻の送達システムが改善されれば、こうした好ましからざる効果の一部を避けるために患者が適量を自己滴定できるようになるだろうが、薬効をもたらす最低量と陶酔量の間にある有効服用量の範囲は狭いものと考えられる。

こうした精神効果のほかにも、大麻は精神運動技術に障害をもたらし、服用後数時間は車の運転には向かず、手先の器用さを求める作業の遂行能力も損なわれる傾向がある。また大麻がもたらす平衡感覚の障害によって、初老以降の患者は転びやすくなることがある。カリフォルニアのカイザー常設健康教会に参加している452名のマリファナ吸引者と同じ人数の非吸引者を比較した結果、マリファナ吸引者のほうがさまざまなタイプの怪我で外来診療室を訪れる率が高いことが判明している。

これはおそらく、マリファナによる急性の陶酔効果が原因だと見られている。(Polenほか、1993)。大麻の心臓や脈管系への影響はきわめて大きい。経験の浅いマリファナ使用者の場合、マリファナは心拍数の著しい増加(最大で2倍)を招き、これが冠動脈疾患や心不全の病歴がある人には害を及ぼす場合がある。したがってこうした患者は、大麻製剤の臨床試験から除外すべきであろう。また大麻によって起こる立ち眩みも深刻で、危険な場合がある。

座ったり横たわった状態から起き上がったさい、血圧が急降下し、失神につながる可能性があるからである。大麻が循環系に及ぼす影響としては、繰り返し服用したケースで概して急速に耐性が生じるものの、そのほかの健常者にとってはとくに深刻な問題にはならないものと思われる。