合成カンナビノイドとは?

大麻製剤合成カンナビノイド

大麻の医療利用についてお粗末な議論が交わされ、両者が一歩も譲らぬ情勢のなかで忘れがちなのは、すでに2種類の大麻製剤が大西洋両岸の国々で患者に処方可能になっている事実である。合成カンナビノイドのドロナビノール(マリノール®)とナビロン(セサメット®)である。両者ともそれほど広範には知られていないが、これら2種類の化合物の医療利用は大麻それ自体と違い、臨床試験で得られたかなりの量の科学的根拠によって裏打ちされており、両者は米国食品医療品局の厳しい許可基準を満たすものともなっている。

ドロナビノール(マリノール®)

ドロナビノールはΔ9-THC、に与えられた属名である。マリノーリ®という商品名で医療品として出回っている。薬剤には薬局方による公的な属名があり、科学文献で記述する際にはこれが使われ、薬剤を商品として市場に出す薬剤会社側では通常、これとは別の商品名をつける。同じ製剤が2つ以上の製薬会社から違った商品名で売り出されることもあるが、薬剤自体にはそれぞれひとつの属名しかつけられない。

ドロナビノールを医療品として使う際の問題の一つは、この純化合物が浅黄色をした粘性樹脂からなり、水にほとんど溶けないことである。このため簡便な錠剤にすることができず、静脈注射の目的で溶解することもできない。そこでマリノーリ®の場合、ドロナビノールを少量の無害なごま油の中に溶かし、柔らかいゼラチンでできたカプセルに収納するかたちをとっている(ドロナビノールの含有量は2.5mg、5mg、10mgの3種類)。カプセルはたやすく飲み下すことができ、胃に入るとゼラチンが溶け、薬剤を放出するようになっている。ごま油は薬剤を含んだ小滴からなら乳濁液をなし、内臓を通過する間にそこから薬剤が吸収されていく。吸収率はほほ完全(90~95%)だが、活性薬の多くが内臓から肝臓を経由して血管内を流れるうちに代謝されるため、全身循環に達するのは服用量の10~20%に留まっている。効果は30分~1時間後に表に表れはじめ、2~4時間でピークに達し、作業の接続時間は4~6時間だが、食欲増進効果は最大24時間まで続く。精神活性のある代謝物11-ヒドロキシ-THCのかなりの部分は肝臓で生成され、親薬(代謝前の薬剤)とほぼ同じ血中濃度を示し、作用期間もほぼ同じである。

ドロナビノールには2つの効果が認められている。

ひとつは癌の化学療法にともなうことが多い悪心や嘔吐を抑えるため、もうひとつはエイズの消耗症候群を抑止する食欲増進剤としての使用だ。米国でマリノーリ®の年商は現在、2000万ドルとなっている。処方の80%がHIVやエイズ患者に対するもの、10%が癌の化学療法、10%がほかの疾患である。これまで医療品としてのドロナビノールが非合法に流用される可能性が指摘されてきたが、実際にそういった事態が起こったという証拠はごく稀少である。ドロナビノールは不正使用すべき麻薬としてはほとんど価値がない。それは効きが遅くて緩慢なためで、習慣的にマリファナ吸引者にとってもその効果のほとんどは魅力と映らない。悪用される可能性がきわめて低い所以である。依存性が低いために、米国麻薬取締局(DEA)は1998年11月、マリノーリ®を1ランク低い規制品目の「等級Ⅲ」に規定しなおす勧告を行っている。

ナビロン(セサメット®)

1970年代、数々の製薬会社がTHCの合成誘導体について研究を行い、向精神作用から望まない医療効果を分離することができるかどうかを調べている。こうした追究はおおかた残念な結果に終わっているが、THCの望ましい効果と陶酔作用がともに中枢神経系の同じCB-1受容体の活性化に起因していると考えられている現在からすれば、当然のなりゆきとも言える。わずかに1社だけが研究を続け、その結果ナビロン(セサメット®)という市販品を作り出すことに成功した。

ナビロンは効力のあるTHC誘導体で、イーライリリー社の研究者たちはこの化合物で望ましい治療効果と向精神作用より分離されているものと考えた。ドロナビノールと違ってナビロンは安定した結晶性固体をなし、人間が使う際にはナビロン1mgの入ったカプセルのかたちで投与されて、経口で服用され、用量は通常1日に2回、各1回1mgないし2mgである。

不安治療における予備臨床試験の結果は前途に期待を抱かせるものだったが、製薬会社では癌の化学療法を受ける患者の悪心や嘔吐の治療に目的を絞る決定を行った。同社はカンナビノイドに関して行われた比較臨床試験のなかでは、もっとも完全な試験を行っている。

出典:マリファナの科学