科学的視点で検証!医療大麻の啓発活動を行う日本人医師にインタビュー!

日本では、まだ法的に認められていない医療大麻の有用性について医学界から主張する声はなかなか聞こえてきません。しかし、中には現在の医療大麻の扱いに疑問を感じ、行動されている医師も少数ながらいらっしゃいます。正高佑志さんもその一人です。正高さんは熊本大学医学部医学科を卒業されていますが、在学中より途上国医療や代替医療に関心を持ってアジア諸国を中心に20数ヶ国を周遊され、カリフォルニアにて大麻の医療利用に開眼されました。現在は臨床の傍らで一般社団法人Green Zone Japanの代表理事として、エビデンスに基づいた医療大麻の啓発活動を展開しています。今回はそんな正高さんとの貴重なインタビューをお届けします。医師の立場からみた医療大麻やCBDオイルの有用性から日本における医療大麻の現状、今後の課題などについて詳しくお話しいただきました。

Q:正高さんが医療大麻に関心を持ったきっかけについて、まずは教えてください。

A:もともと旅が好きで、色々な国をバックパックを背負って訪れた時期がありました。その途中、アメリカの西海岸で大麻が医療目的に使用されているのを知ったのがきっかけですね。シアトルではイチロー選手がプレーしていた球場の道向かいに、堂々とディスペンサリー(※大麻を扱う専門店)が営業していますので。

ディスペンサリー

その頃ちょうどナショナルジオグラフィック誌で、マリファナの科学という特集が組まれて、難治性てんかんの子供のけいれん発作が大麻オイルのおかげで劇的に減ったのが取り上げられていました。我が家では日本語版創刊号から定期購読していたので、ナショナルジオグラフィック誌に対しては個人的な信頼が厚いんです(笑)。

マリファナの科学

その後、日本のNPO法人が主催した医療大麻使用を目的としたツーリズムに医師として参加し、現地のカンナビノイドドクターや患者さん達にお会いし、また同行した実際の患者さんに対して効果があることを目の当たりにして、その有用性を確信しました。

Q:日本と海外では、医療大麻を取り巻く環境はどんな点が異なりますか?

A:アメリカと比較した場合、現代標準医療にかかる費用の問題や、医療不信の程度が大きな違いではないかと思います。

日本では薬の値段が高くなりすぎないよう、厚生労働省が薬価を定めています。つまり製薬会社は自由に値段を決めることが出来ないのです。加えて国民皆保険制度がありますので、患者さんの自己負担額は10%〜30%で済みます。更には、高額療養費制度や指定難病制度があるので、どれだけ高額な医薬品を使用しても、自己負担額には上限があったり、無料だったりする訳です。その費用を捻出するために大量の税金が投入されていて、国の財政状況を考えると、この現状が正直いつまで続くのかわかりませんが、いまのところ、日本の保険医療というのは世界一と言っていいほど手厚いのです。

一方のアメリカでは、保険は全て民間の任意加入であり、薬価も製薬会社が決めることが出来ます。結果として、アメリカの薬価は世界で一番高く、患者さんによっては国境を越えてカナダまで薬を買いに行く人もいるそうです。そういう状況で、たとえば一般的な抗がん剤治療を行うと、保険に加入していない場合、途方も無い金額がかかることになります。(私の友人がアメリカに留学していたときに虫垂炎(盲腸)の手術をしたそうなのですが、一泊二日の入院と簡単な手術で請求書が300万円だったと言っていました。)

またアメリカでテレビを観ていると気が付くのですが、コマーシャルの半分くらいが医薬品関係なんですよね。つまり医療も露骨にビジネスの一部になっている。そういう状況で、多くの市民が、製薬会社と病院による従来の医療に不信感を抱いているのだと思います。そんな中で、代替医療のひとつの有力な手段として、医療大麻というものが台頭してきているというのが、アメリカでの医療大麻を巡る環境だと思います。そのあたりの話については、デイビット・カサレットという医師がTED talkで話している内容も興味深いのでおすすめします。

医療大麻に対するある医師の経験

Q:医療大麻が一体どういった有用性を持っているかを知っている医師は、日本にどの程度いると思いますか?

A:どうなんでしょうね? たとえば2017年、2018年と立て続けに、小児の難治性てんかん症候群に対してCBD製剤が有効であるという研究結果が世界一有名な医学雑誌(New England Journal of Medicine)で報告されています。。

ドラベ症候群の薬剤抵抗性てんかんに対するカンナビジオールの試験

https://www.nejm.jp/abstract/vol376.p2011

レノックス・ガストー症候群の転倒発作に対するカンナビジオールの効果

https://www.nejm.jp/abstract/vol378.p1888

僕も研修医の頃は自分でお金を出して、この雑誌を購読していました。そういう勉強熱心な先生は少なくないはずです。でもCBDが実は大麻から抽出されていることを知らないといったケースも多いのではないでしょうか?多発性硬化症やてんかんといった、大麻の研究が進んでいる病気を専門としている先生方からは、大麻について耳にしたことがあるという声を聞きますが、大麻について語ることは国内ではタブーとされている空気がありますので、話題になりづらいのでしょうね。

たとえばモルヒネには、大麻よりも高い依存性があるにも関わらず、日本では適切に管理され、問題はほとんど起きていません。医療現場でのモルヒネの使用に反対する医師はいないと思います。大麻の有用性が科学的に検証されてきた今日、大麻の医療利用を禁止し続けるのは理屈にあわないことを、多くの医師はわかってくれるでしょう。

日本の医師が実際、医療大麻に対してどれくらいの知識があって、合法化に関してどのような意見を持っているかのアンケート調査を行う為に、現在、倫理委員会に書類を提出しています。

Q:国立大学に属された立場で医療大麻の有効性を広げていく一番の障害(苦労)になる点とはどんなことでしょうか?

A:倫理審査が厳しいことですかね。たとえばCBDオイルが効きそうな症状の患者さんがいたとして、ちょっと飲んでみますか?とすることは出来ない。適正な審査を経て輸入されている製剤で、法的にはオリーブオイルを飲ませるのと変わらないのですが、それでも倫理審査が必要になります。山のような書類を書いて、何ヶ月も待たないといけません。

Q:去年、医療大麻研究の第一人者であるイーサン・ルッソ博士を招聘し、東京大学や国立がんセンター、熊本大学などでカンナビノイド医療についての講演を運営されていますね。講演に参加された皆さんの反応はどのようなものでしたか?

A:日本ではこれまでに語られたことのない話だったので、興味深く聞いて頂けたと思います。今年の9月に第二弾として、コロラド州立大学から難治てんかんの専門家であるDr. Edward H. Maaを招聘することになりました。御協力頂ければ幸いです。

Q:海外ではCBDオイルを服用し、難治性てんかん患者さんのけいれん発作が予防できると報道されています。正高さんご自身の意見では、CBDオイルは有効だと思いますか?

A:一言にCBDオイルと言っても、様々な製品が存在します。それはたとえば、オリーブオイルにも色々な商品があるのと同じです。そのうち、GW製薬が製造しているEpidiolex(エピディオレックス)という製品は、医薬品としての認証を得るために、海外で臨床試験が行われ、ドラベ症候群とレノックス・ガストー症候群という難治てんかんの患者さんのけいれん発作回数を明らかに減らすことが示されています。なので、一部のてんかんに対してCBDオイルが有効であること、これは私個人の意見ではなく、既に科学的な事実と言っていいでしょう。

現在、日本国内で購入可能なCBDオイルに関しては、エピディオレックスとは厳密には組成が異なります。エピディオレックス以外のCBDオイルに、同じような効果があるかどうかは臨床試験をしていないので、はっきりしません。

ただ難治性てんかんの患者さんで、その他のてんかん薬で十分な効果が得られない場合には、経済的に可能であれば試してみる価値はあるのではないかと個人的には思います。(エピディオレックスは近日中に、海外では医薬品として販売される見込みですが、日本では大麻取締法の規制対象であり、禁止されています。)

Q:現在医療大麻と呼ばれる天然大麻由来製薬(サティベックス)と合成製薬(マリノール)について、海外ではどのような疾患をお持ちの方に処方されているのでしょうか?

A:マリノールというのは、大麻に含まれる精神作用を司る化学物質、THCを単離、化学合成した製剤ですね。1980年代に製品化され、アメリカ、カナダ、ドイツ、ニュージーランドなどでは今も医薬品として販売されています。エイズ患者の食欲低下や、抗がん剤治療中に生じる吐き気などを適応としています。

Sativex(サティベックス)というのは、先ほど出てきたエピディオレックスと同じGW製薬が製造する、天然大麻草由来のTHC:CBDを1:1の割合で含む医薬品です。現時点でヨーロッパを中心に世界30ヶ国で医薬品として処方されています。主な対象疾患は多発性硬化症という脳炎に伴う痙性麻痺(※長嶋茂雄さんの脳梗塞後の症状)です。その他にも神経痛や癌性疼痛にも有効であるとの研究報告があり、イスラエルではがんによる痛みにも処方可能とのことです。

Q:アメリカ現地で取材をした際、合成処方薬(マリノール)が発売された当初、使用者が増えたものの医療大麻が解禁されると徐々に医療大麻製品を好む方が増加傾向にあるという面白いエピソード聞いたことがあります。医療大麻を好む理由は何が考えられるのでしょうか?

A:まずは値段が高いことが挙がられるでしょうね。試しにインターネットで検索してみると、マリノール1錠あたり、11ドル〜43ドルとなっています。これは大麻よりずっと高額です。またマリノールの副作用が強いことが挙げられると思います。THCを単離合成した製剤は、天然の大麻草を吸引するよりも倦怠感やうつなどの精神的副作用が出やすいようです。

天然の大麻草や、大麻を加工して作られた製剤にはTHC以外にも数多くの微量な有効成分が含まれています。CBDもそのひとつですね。大麻の薬効というのは、そういう様々な科学物質が集まることで成り立っています。専門用語でアントラージュ効果と言います。それはAKBの魅力が、メンバーが集まることで成り立っているのと似ています。一番人気があるメンバーだけをソロで売り出しても、思ったようにセールスが伸びないのと、THCだけを単独で投与しても思ったほどの効果が出ないのは、構造として近いところがあるように個人的には思います。

また吐き気や食欲不振というのは、患者さん自身が効果を判断できるのも大きいかもしれません。医者がなんと言おうと食欲が出れば、それが本人にとっての真実ですから。

Q:医療大麻は常に副作用が取り上げられます。どんな薬であっても副作用はあると思います。オピオイド系の製剤と比べ、医療大麻の副作用は少ないと聞いたことがあります。その点についてお聞かせください。

A:アメリカで社会問題となっていることのひとつに、モルヒネなどのオピオイド系鎮痛薬の過量使用による死亡事故があります。(管理の厳しい日本ではきいたことがありませんが。)大麻はどれだけ大量に使用しても、呼吸抑制をきたすことはありません。つまり大麻のオーバードーズで死ぬことはないということです。

さらに動物実験の結果では、オピオイドとカンナビノイドを併用することで、オピオイドの効果に相乗効果が得られると報告されています。つまり1+1が3になるということですね。その結果、難治性の痛みに対するオピオイドの使用量が減らせることが期待されています。

参考資料: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3742578/

Q:医療大麻解禁を訴える人が大麻所持で逮捕されるという非常に残念な報道が昨年ありました。やはり、医療大麻解禁を訴える以上、責任を持って然るべき行動をと考えています。その点についてどう思われますか?

A:そうですね。その点に異論はありません。ただ一点、世界的に薬物犯罪に厳罰を科す方針は見直されつつあります。刑務所に入れても、再発予防にはつながらないとわかってきたんですね。現行の大麻取締法の量刑は、先進諸国と比較すると非常に重い。

大麻の長期使用に伴う健康被害を明らかに上回る社会的被害が、逮捕によってもたらされている。これは個人の保護という法律の趣旨からみると本末転倒です。マイケル・ムーア監督の『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』というドキュメンタリーを観てください。ポルトガルの薬物政策の話に、きっと皆さん、驚くと思います。

薬物を合法化を推進したら薬物中毒者は減少するのか?

Q:正高さんが仰る社会的損害とはどんな事を指しているのでしょうか?

A:失業や資格の停止、周囲の人々からの信頼を失うことなどですね。日本では逮捕されるということ自体が、社会不適合者の烙印と直結していますから。

Q:確かに欧米に比べると日本を含むアジア諸国の大麻取締法は重いと感じます。大麻はよくゲートウェイドラッグ(薬物の入り口)と指摘されています。先日医療大麻を供給している農家で短期間働いた方にインタビューをした際、全ての薬物の入り口は、アルコールであると仰っていました。その点についてどう思われますか?

A:日本では今日でも『ダメ絶対!』のスローガンの下、大麻と覚醒剤を意図的に混同させるような薬物教育が行われています。それに加えて、この大麻=ゲートウェイドラッグ仮説というのが未だに幅をきかせていますね。
しかしゲートウェイ仮説というのは、これまでの科学的検証と大麻合法化論争の中で打ち破られた仮説と言っていいと思います。

反証としてよく言われることには

①大麻使用者のほとんどがハードドラッグに手を出さないこと(今日ではハードドラッグ依存症患者の治療に大麻が使用されています)
②大麻がゲートウェイとなる理由は、大麻の薬理作用よりも違法であることに由来すること
③これまで、ゲートウェイ仮説を証明するために数々の研究が行われたにも関わらず、大麻がゲートウェイドラッグになるという確たる証拠が得られていないこと
④多くの公的機関が既にゲートウェイ仮説を支持していないこと

などが挙げられます。

②に関して、少し説明しておきましょう。
現在、日本では大麻は違法であり、結果として売買は水面下で行われます。大麻を販売するディーラーは同時にその他の違法薬物も商っています。何度も顔を合わせるうちに、ディーラーはその他のハードドラッグも勧めます。そうやって一部の大麻ユーザーがその他の薬物へと誘導されるという側面は確実にあるでしょう。それはスーパーのレジ横のガムと似ています。一部の人はつい買ってしまう。

仮に大麻が合法であった場合、大麻とその他のハードドラッグの販売経路は完全に別になります。そうすることによって、大麻ユーザーがハードドラッグと接する機会自体がなくなるのです。

また④に関しては、NIDA(アメリカ国立薬物乱用研究機関)のホームページをみてください。
https://www.drugabuse.gov/publications/research-reports/marijuana/marijuana-gateway-drug
ゲートウェイ仮説に関して否定的な見解となっているのが理解頂けると思います。

大麻・マリファナの代名詞であるゲートウェイ理論

農家さんの件とNIDAは同じ考えのようですね。

Q:正高さん自身、医療大麻を前向きに検討していく上で何が一番重要だと考えていらっしゃいますか?

A:現行の法律、大麻の医療使用を禁止している大麻取締法4条を見直すことではないでしょうか。医療目的での利用を禁止する法律がある限り、物事が前に進んでいかない。

Q:日本では大麻の医療目的の研究ですら法的に禁止されている状況です。その点についてどう思われますか?

A:ほんの10年前まで、世界中で研究すら禁止されていたことを考えると、それも仕方がないことだったとは思います。けれど世界がインターネットでつながった今日、常識の賞味期限がどんどんと短くなっています。新しい変化に対して、速やかに対応できる法整備が必要だと思います。

Q:今後のGREEN ZONE JAPANではどのような活動に力を入れていくおつもりですか?

A:まずはこれまで通り、医療大麻に関する科学に基づいた情報の日本語での発信を継続していきたいと思います。医療大麻に関する情報は日々、膨大な量が更新されています。けれども、そのほとんどは英語で発信されており、日本語の情報は限られています。また日本では、情報元を開示するという習慣がありません。たとえば厚生労働省は大麻の健康被害に関するページを持っていますが、誰が書いたのか、責任者の名前もなければ、根拠となる科学論文の引用元も記されていません。参考文献が自分たちの発行物になっているのは怪しい宗教団体と同じレベルです。

厚生労働省薬物大麻情報

我々は、何かについて語るとき、なるべく科学的であろうと心がけています。カール・ポパーが定義したように科学的であるとは、反証可能であるということです。誰が何を根拠に言っているのか、その気があれば読者が確認でき、それを基に議論が生まれるような、そういう記事を書いていきたいと思います。たとえば大麻に関する厚労省の言い分に対して、私達は文献を元に反論する記事を書いています。それに対して異論がある人は、元となった論文を読んで、反証できるようになっています。

大麻の害悪を検証する

我々のスタンスは宗教的な大麻信仰とも真逆の姿勢です。医療大麻は魔法の薬ではありません。その有用性には限界があります。効果があるところと無いところ、その境界線を冷静に線引きすることが、我々の役割だと思っています。

あとはそうですね、医療大麻に関する情報が広く周知されてくると、実際に使用したいと考える患者さんの数も増えてくると思われます。そういう声を束ねて、しかるべき政治的な変化へとつなげていく必要があると思います。

正高さんが代表理事を務める社会社団法人GREEN ZONE JAPANは、医療大麻研究の進展と、海外における臨床使用の実情を日本人々に啓蒙することを目的として設立されました。医師という立場から科学的かつ客観的に医療大麻の有用性を評価し、その知識・情報を広めようと活動される正高さんの姿勢には感銘を受けますね。こういった視野の広い良心的な医師が増えていけば、その説得力の高さから、医療大麻に対する偏見の払拭にも大きな影響をもたらすのではないでしょうか。今回は興味深いお話や日本における歯がゆい現状について伺うことができ、ぜひ多くの人々に読んでいただきたいインタビューとなりました。
正高さん、貴重なお話をありがとうございました!

 

GREEN ZONE JAPAN

一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN