メディケアによるオピオイド取り締まりに懸念の声

アメリカの高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるメディケアの職員は、高齢者や障害者に過度に処方されているオピオイド問題を解決するために取るべき措置をやっと見つけたようです。2016年は、メディケアの医薬品プランの恩恵を受ける4360万人の1/3という驚くほど多くの人が鎮痛剤を処方されていました。

メディケアは今後、長期的に高用量の処方薬の費用を負担しないと決断しました。 一部の医療専門家は、依存症を抑止するものとして規制を賞賛しました。しかしこの提案は、慢性痛患者やかかりつけ医、疼痛管理、依存性治療の専門家を含む直接的にこの決定に影響を受ける多くの人々から、広範囲で大きな反論も受けました。

患者を脅かす新規定の問題点

この規定は政府を医師と患者の関係に介入させ、鎮痛剤へのアクセスを失った患者を離脱症状に追い込むか、危険なストリートドラッグの購入の誘発する可能性があると批評家は述べています。オピオイド系の処方数は2011年以降、減少し続けていますが、鎮痛剤、さらに違法なフェンタニルやヘロインに起因する過剰摂取率は急増していると指摘されています。

アルバート・アインシュタイン医学校准教授でオピオイド研究者、ジョアンナ・L・スタレルズ博士は次のように述べています。
「オピオイド系鎮痛剤を徐々に減らす決断は、痛みや機能に対する効果が患者に対する危害より上回るかどうかに基づいて行われるべきです。そのためには多くの臨床的判断が必要ですし、それぞれ少しずつ異なります。専断的な基準値で体系化することはできません」

議論の根底にあるのは、鎮痛剤を必要とする患者が治療を続けられることを保証しつつ、どのように依存性の高い薬剤へのアクセスを抑制するか、という基礎的なジレンマです。

この規定は、メディケアが、患者が癌であるかホスピスにいる場合を除き、1日90mg以上のモルヒネに相当する処方薬の7日間以上の処方の保険適用を認めないことを意味します(モルヒネ等力はオピオイドの効力を測定する標準的な方法です)。

メディケアのデメトリオス・コウゾウカス首席次長によるとメディケアは、大切な治療オプションへのアクセスを維持しながら、患者がオピオイド中毒または過剰摂取に陥るリスクをさらに減らすことを目標としています。

現在このレベル以上の処方をされている患者は約160万人であると、メディケア・メディケイドサービスセンターは推定します。この規定が、要求される意見・再検討期間終了までに承認されれば、2019年1月1日より発効となります。

アラバマ大学バーミンガム校で依存症医学について教えているステファン・G・カーテス博士は、220人の学問的医学における教授、依存症治療及び疼痛管理の専門家、患者支援団体によって署名された異議申立書を提出しました。

カーテス博士の患者には、多くがさまざまな身体的・精神的障害、そしてオピオイド依存問題を抱える元ホームレスの退役軍人が含まれます。彼らにとってオピオイド処方の抑制は、健康改善と同じではなく、逆に一部の患者は突然離脱症状に陥る見通しを受けて自殺を考えるだろう、と博士は言います。

「2006年から2011年の間のオピオイド投与量の増加の多くは、恐ろしいほど浅はかでした。しかし、私は毎週、患者が恐れを感じた内科医によってオピオイドを取り上げられたことによるトラウマを緩和しようとしています。真のケアプランの設定を含む合意に基づくプロセスの一環として、オピオイドを抑制する素晴らしい医師もいます。しかし、この規定はそうではありません」

約24州ならびに多くの民間保険会社がすでにオピオイドに制限をかけているなか、メディケアにも何か措置を取らねばならないという圧力がかかっていました。昨年7月、保険局および厚生局の総括監察官は、メディケア受益者に対するオピオピイドの「過度な利用と問題のある処方」を疑問視しました。11月には政府説明責任局がメディケアを非難し、オピオイド処方に関するより重大な監督を要請しました。

患者から上がる不安の声

この規定が発効された場合、マーク・ゾブロスキーの体験は多くの患者にとっての前兆となるでしょう。ノースキャロライナ州ピードモントに住む63歳のゾブロスキーは、5回の手術と数え切れないほどの代替療法にもかかわらずしつこく続く背痛のためにオピオイドを飲んでいます。ソブロスキーの背中には苦痛を和らげる脊髄刺激装置が埋め込まれているほか、痛みのせいで歯ぎしりしたことにとって臼歯を4本も折ってしまった、と彼は言います。その障害の結果として、医薬品を負担する個人プランを含めたメディケアを受益しています。

ソブロスキーは毎月、尿検査を受け、医師が処方されたオピオイドを数えられるように持っていきます。強制的な削減に準備するため、担当医は1日あたり約200mgのモルヒネ等力まで投与量を減らしました(ゾブロスキーは体格が大きい人です。医師によるとオピオイド耐性は多くの要因によって異なります。ある人にとっては30mgでも別の人にとっては90mgであることもあります)。

2月、ゾブロスキーは薬剤師に、保険がもうオキシモルフォンに適用されなくなると告げられました。医療記録によると、月々の自費による出費は225ドルから1000ドルまで跳ね上がりました。「これを長く続けられる余裕はなく、心配です」とソブロスキーは言いました。

背景説明のみをするメディケア職員は、月々の高用量に対する制限は過剰処方をする医師を捕まえるだけでなく、故意か否か複数の医師からオピオイド処方薬をためる患者を監視することを目的としていると述べました。投与量が注意された時、薬剤師または患者が医師に警告します。

しかし、悪い知らせを伝える役目を負うのは薬剤師です。ニュージャージー州ハッケンサックに住む鎮痛剤専門の薬剤師ジェームズ・デミッコは、患者のためにオピオイド保険不認可を交渉するのはすでに「非常に煩わしい」と言います。彼は医師と民間保険会社の間も何時間も往復しています。「不名誉を感じている患者に同情します」とデミッコは嘆きました。

スタンフォード大の依存症医学専門家アンナ・レムケ博士は、設計はともかく提案されている規定の意図にはメリットがあると考えています。

「疫病対策センターは2011年に薬物蔓延を宣言しました。その原因は明白に、そして正当に過剰処方です。外部の規制がなければ、処方する人がこの公衆衛生危機に対処する必要があるほど処方を制限できるとは思えません」

とはいえ、メディケアもまた患者が安全に高用量を減らしていく妥当で寛大な期間を設ける必要がある、とレムケは付け加えました。

規定の草案によると、高用量の処方箋が拒否された場合、医師は医療の必要性を主張して要請することができるとしてありますが、メディケアが屈する薬剤を虹的な保険会社が適用するという保証はありません。薬剤師は1回だけの7日間の緊急用供給品を調合することができます。

この新規定の反対者は、医師はすでに時間のかかる書類手続きに圧倒され、多くが単純に諦めてオピオイドの処方をやめるだろうと話しています。処方の遅延または否定は、慢性痛患者や、炎症性関節疾患、複雑な銃弾による損傷、鎌状赤血球病などを患う患者を、急性離脱症状や疼痛再発のリスクにさらすだろう、と医師は言います。

取締り案の元となったガイドライン

メディケアの提案は、医師は90mgのモルヒネに相当する量までオピオイド投与量を増加させるべきではない、とする疫病対策センターのガイドラインに基づいています。しかし、メディケアはこの勧告を読み違えていると専門家は指摘します。90mgという赤旗はオピオイド療法を始めたばかりの急性疼痛をもつ患者向けであり、長期的にオピオイドを摂取している慢性痛患者向けではありません。ガイドラインによると、急性疼痛患者はアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの治療薬をはじめに提供されるべきです。低用量オピオイドによる短期治療は最終手段であるべきです。

このガイドラインを作成したニュージャージー州ラトガース大学医学部及び大学病院の緊急医療科長ルイス・S・ネルソン博士は次のように述べました。
「私たちはすでに高容量のオピオイドを摂取している人々に対する特定の見解を取りませんでした。高用量が定着した患者は投与量削減を不安に思う可能性がありますが、これらの患者には再評価のためのカウンセリングが提供されるべきだとは述べました。医師向けの疫病対策センターによるガイドラインと保険会社や薬剤師向けのメディケア・メディケイドサービスセンターによる急止には違いがあります」

ミネソタ大学医学部の准教授エリン・E・クレブス博士は先日、重度の膝の痛みと背痛を抱え、オピオイドの代替薬を摂取する患者は、オピオイドを摂取する患者よりも良いとまではいかないが経過は良好だったことを示す包括的な研究結果を発表しました。それにもかかわらず、クレブス博士と疫病対策センターのガイドライン作成に関与した7人の医師は、メディケアの新規定に対する異議申立書に署名しました。クレブス博士は次のように述べています。

「私は、この研究結果が患者にとって有害となるような、急激な投与量の削減や即時中断を正当化するのに利用されることを懸念しています。背痛や膝の痛みに対してオピオイドの使用をやめたとしても、何年、何十年とオピオイドを処方されてきた患者を放置することはできません。私たちはこれらの人々のために二重の悲劇を作ってしまったのです」

オピオイドの過剰処方に起因する依存症問題が深刻となっているアメリカでは、一方で医療大麻がオピオイド系鎮痛剤の代替薬として有効である可能性を示すデータが次々と出ています。医療大麻が合法化されている州ではオピオイド中毒が減ったというデータもあります。すでに依存症となった患者の安全を確保しつつ、この問題を一刻も早く解決するために医療大麻の有効活用が提案されるといいですね。

 

参考:NYTimes