これからマリファナはどんな位置づけに?

マリファナ論争

「大麻戦争」のどちらか一方に読者を引き込むのが目的ではない。二極化した感のあるこの論争のどこかで妥協点をさぐることこそが本願である。このテーマに関して知られている限定的な事実に対し、あまり用心深い態度をとると、ホールらがオーストラリア政府に答申するかたちで書いたバランスのとれた論評「大麻使用による健康上ならびに心理学的な結果」(1994)に向けられたような批判を招くことになる。ホールらは「有害な用心深さ」を非難された。ゴーゼ博士は言う。

著者は自らの推論が主に規定の証拠にもとづくものだという点に厳格でありすぎるきらいがある。
証拠を解釈するさいにこうした高度な用心深さを見せること自体はいいことだが、大麻の使用によって起こりうる健康上の結果は一般読者に向けて簡潔に、いわばわかりやすく伝えるべきなのに、こうした情報があまりに突出してしまっているのだ。これは大麻使用の結果について客観的な見方をさせ、著者の見かけ上の用心深さを偏見を生むもとにしたり、場合によっては有害なものにしたりする結果になっている。(Ghodse,1994)

現在、西洋の大麻論争は興味深い段階に達している。われわれは薬箱にふたたび大麻を加えるべきかどうか、大麻の娯楽利用がもはや文化の一部になっていることを認めるべきかどうか、速やかな決断を迫られている。

これまで1世紀にわたってもろもろの政府や団体が資金的に支援してきた数多くの調査から、何かを学びとることができるのだろうか。体内で新たに発見されたカンナビノイド系について科学的研究を続けていくことで、陶酔効果を避けるような新たなカンナビノイドの利用法を発見することができるのだろうか。

大麻調査の100年

大麻について専門家による調査を今後も続けていく___という決定は、この問題について議論したり行動を起こしたりしないための政治家の方便にすぎないのではないかという皮肉な見方もできるだろう。これまで世界各地で専門家による数々の調査が行われ、そのほとんどのケースで大麻が並はずれて安全な薬物であるとの結論に達している。

大麻製剤を許可するために必要ないっそう詳細な臨床研究の結果が出るまでの間は、限定的な医療利用を認めるべきだとの声も多数上がっている。これまでに行われた調査のどれひとつとして実質的な法制上の変化につながったものはないが、いくつかの重要な調査については、いまここで考察してみる価値があるだろう。

インド大麻委員会の報告(1984)

この報告は長らく世に埋もれていたが、近年になって新たな活躍の舞台を与えられたのは妥当といえるだろう。19世紀のイギリス帝国の統治の様子を示す注目すべき実例である。英国がインド支配を拡大するにつれ、原住民による大麻の乱用が健康被害を及ぼすのではないかという懸念の声が上がるようになった。

インド国内の精神病院は大麻の乱用によって精神病になった人たちでいっぱいになっているという噂も流れた。19世紀末、英国議会は英国内でのアヘンとアルコールの使用を制限する新法を施工している。アルコールの害悪と闘うために禁酒同盟も設立された。禁酒運動の指導者のひとりは1983年3月、英国議会で質問を行い、インド国内での大麻取引の道徳性を問いただしている。

当時、大麻取引は英領インド政府が認めていただけでなく、多額の税収入をもたらしていたのである。英国政府はインド政府に対して、次のようなことを要求している____委員会を設立し、ベンガルにおける大麻の栽培や大麻製剤の製造、取引、大麻の使用が国民の社会的・道徳的状態に及ぼす影響、大麻の栽培やガンジャその他の薬物の販売を禁止することの妥当性について調査すること。

本国とインド政府の高官や医学専門家からなる委員会は、ベンガルだけでなく英国領インド全域にわたる調査に乗り出した。聞き取り調査にあたっては13の州や市から1193名の証人を選び出し、質問項目を統一し、証人は当局者と広範囲の一般市民双方を代表するように注意深く選別された。

質問項目は各地域における大麻草の栽培、大麻から作られる薬物の製造と消費、大麻の使用が使用者の肉体的・道徳的幸福に与えると見られる影響などであった。委員会からとくに出された疑問点に、一部の人たちが言うように大麻の使用が精神異常をもたらすのかどうか___というポイントがあった。

英領インド国内のすべての精神病院を対象にして、大麻がもとで精神病になったとされる全患者の記録が慎重に調査された。結論は、ほとんどのケース
で大麻が原因とは考えられず、実際に大麻が原因となったわずかなケースでも病気は短期的で、薬物の使用をやめることによって回復可能であることがわかった___というものであった。

この結論は今日、ほとんどの精神科医が考えていることとも一致している。詳細で徹底した作業から2年たって委員会はその結論と裏づけのデータを6巻にまとめ、1894年公表している。乾燥大麻(バング)に関するその結論は、以下のように要約することができる___。

委員会としては、バングの使用抑制が総合的に見て正しくないことを表明するにやぶさかでない。バングの使用がかなり古くからあり、ヒンズー教でもある程度宗教的に認められ、社会的習慣の一部となっており、適量ならほとんど例外なく無害で、場合によってはおそらく有益でさえあり、乱用してもアルコール乱用の場合ほどには害にならず(中略)といったことは、使用する側にとっては満足なことだろうが、すでに一般に認められている事実なのである。

インド大麻委員会は吸引スタイルの大麻、つまりガンジャとチャラスにたいしては、これよりも慎重な態度をとっている。一部の証人が吸引大麻の常習性に触れ、この習慣が身につきやすく断ち切りにくいことを証言しているからである。あが同委員会は、大麻の禁止令については正当とも必要とも考えていない。

禁止令はいかなるケースであれ実施がむずかしく、宗教上の大麻を使用する者から激しい抗議を招くことになり、人びとを大麻より危険な薬物へと走らせる恐れがあるからである。

さらに、警告はアルコール対策についても疑義を呈するかたちとなっている以上のこととは別に、もうひとつ考慮すべきポイントがある。これまでいくつかの陣営が力説し、わが委員会としてもある程度の重要性を認めたいポイントだが、インドで大麻だけを抑圧してアルコールを放置しておくことは、明らかにそれなりの根拠があって大麻よりアルコールのほうが大きな害をもたらすと考えている大勢の人々から、誤解される恐れがあるということである。

委員会の報告は並はずれて洗練されており、今日の「大麻戦争」で論じられる問題の多くとも驚くほどの関連性を示している。英国政府が大麻製品の取引に課した税収入によって、いくつかの大麻産出地域がインド政府の収入のかなりの部分を担っているという事実が委員会の楽観的な結論に影響している可能性があるとはいえ、この報告は徹底的かつ客観的な分析だということができる。

ラガーディア市長の報告「ニューヨーク市におけるマリファナ問題」(1944)

1937年に米国議会で大麻課税法案が承認されてからも、大麻の不法消費は米国のあちこちの都市で伸長を続け、大麻はメディアでは「悪魔の薬」との悪評を受けることになった。連邦麻薬局長官のハリー・アンスリンガーが煽り立てた通りの悪評である。ニューヨークではラガーディア市長が大麻の有害性についての調査を行うことを決めた。

調査は50年前のインド大麻委員会以来、もっとも念入りなものであった。ラガーディアが設けた委員会では受刑者から77名のボランティアを募り(当時、調査対象者としてこうしたボランティアを使うのはごくふつうのことで、たとえば米国のほとんどの製薬会社は、受刑者を使って新薬の試験を行っている)、マリファナの効果に関する臨床的調査を行った。

被験者はエィルフェア島病院にいる間、多量の大麻抽出物が支給されるか、最大1カ月までマリファナを吸うことが認められた。THCの含有量は不明だが、ほとんどの被検者がもっとも低い投与量でもハイになっていることから、かなり高い含有量あったことは確かである。研究者は副作用の発症率が低いことに強い印象を受けている。

もっともよく見られた副作用は不安(とくにそれ以前、マリファナ経験のない被験者に見られた)、悪心や嘔吐、運動失調(動作がぎこちなくなる)であった。9名の被検者が「精神病的症状」と呼ばれるものを報告しているが、いずれも一時的で、深刻な症状とは考えられない。また以前、毎日マリファナを吸っていた60名のウォーズ島収容の受刑者のグループと、同じくまったく使用していなかったグループとの間で慎重な比較検討が行われている
研究者は次のような結論に達している___

大麻の長期的使用は肉体的・精神的・道徳的な退行につながらず、継続的に使用した場合でも何ら永続的な有害効果は認められない。

臨床試験とおなじくらい重要なのは、委員会の手で行われた社会的調査であった。これは市内のマリファナの使用や売買が広がっている地域に住む私服警官を対象に行われた。子供たちの間にどれほどマリファナが広がっているかという質問項目も加えられている。

研究者の結論は、マリファナの使用は主に市内の貧困社会、とりわけハーレム地域に限定され、マリファナの使用と犯罪との間には何らつながりはなく、マリファナが暴力行為を引き起す事実はない____というものであった。子供たちの間にマリファナが広がっているという証拠は得られなかった。同報告はさらにこう結論づけている___

マリファナ吸引がコカイン、モルヒネ、ヘロインといった薬物使用の第一歩となるという一部の研究者の意見については、これを確かめるにはいたらなかった。マリファナ吸引の習慣がこれらの麻薬の中毒につながった実例は極端に少ない。

だが、ラガーディア市長の報告(1944)がこれまで行われたうちでもっとも明快な、もっとも徹底した調査のひとつだったにもかかわらず、その結論が当時の米国世論に大きな印象を与えることはなかった。

マリファナが比較的害の少ない薬物だという結論は、メディアやハリー・アンスリンガー知りたがっていた情報とは別物だったのである。アンスリンガーはこの報告の結論に難癖をつけ、影響力のある「米国医師会報」までが論説のなかで報告にかみつき、次のように結んでいる___

公人としてはこれを非科学的な、無批判な研究例として無視し、世論で何と伝えられようとひきつづきマリファナを危険物とみなすのが賢明であろう。

ジェローム・ヒンメルステイン(1978)はその著書「マリファナの数奇な運命」のなかで、米国の大麻政策と大麻イデオロギーがいかに奇妙な歴史をたどったかについて、注目すべき洞察を行っている。こうした歴史についての詳細な記述はアベル(1973)やロビンソン(1996)、ボニーおよびホイットブレッド(1974)にも見ることができる。

大麻に関する一般大衆の認識は科学的事実の公平な調査にはほとんどむけられることはなく、ハリー・アンスリンガーや連邦麻薬局による熱心な反大麻キャンペーンや、大麻を下層階級やメキシコ移民と結びつけて拒絶するいかにも世論の受けがよい考え方に、大きく依存していたのである。

英国ウットン報告(1968)

イギリスをはじめほとんどの西欧諸国で大麻の消費が広く行き渡るようになるのは、1960年代に入ってからであった。それまでに見られた大麻規制についての大方の考え方は、主に米国で起こった出来事や、1925年の国連アヘン会議や1964年に採択されたWHO麻薬単一条約をはじめとする、実施に移されたさまざまな国際条約に後押しされるかたちになっていた。

国連アヘン会議では大麻をアヘンとともに危険な麻薬と規定し、WHO麻薬単一条約は同じく大麻を医学的有用性のない「等級Ⅰ」の中毒薬に規定するものであった。当時の英国政府がこれまでより厳しい見方をする必要を感じはじめたのは、大麻の使用が突然広がりを見せた1960年代になってからである。

不法薬物の規則にあたる英国内務省は、薬物依存諮問委員会と呼ばれる専門家によるグループを作り、さらに「これらの薬物(大麻とLSDを指す)の薬理学的、臨床的、病理学的、社会的ならびに法的な局面について得られる証拠を検討しなおすために」専門家からなる小委員会を設置した。経験豊かな社会学者であり、政治家でもあるウットン男爵夫人が、この小委員会の議長を務めている。

小委員会が審議を行っている最中に、大麻使用による「危険」は誇張されたものだとする広告が1967年7月24日付けの「ロンドン・タイムズ」に載り、大麻の消費を規制する法律の緩和を訴えたが、これがメディアや議会に大きな論争を巻き起こす結果となった。1968年、当時の内務大臣ジェームズ・キャラハンに提出された「ウットン報告」が公になると、大きな反響を呼ぶことになる(薬物依存に関する諮問委員会、(1969)。その結論は明快なものであった___

われわらは大麻の使用がごく微量でも一部の人間にもたらす副作用については、取るに足らないものとして度外視すべきだと考える。大麻がさらに広く使用されるよう、奨励すべきでないことは疑いを持たないが、一方でわれわれは、これまで広く受け入れられてきた大麻使用による危険や、アヘン剤使用に移行するリスクは誇張されており、大麻詩湯を抑止するために現在行われている刑事制裁は、不当に厳しすぎるものだと考える。

報告はさらに刑法の一部を改正すべきことを勧告している。改正すべき主たる項目として、個人で使うための少量の所持は拘置の対象とせず、略式の罰金刑だけですませるべき点を挙げている。さらに報告は、医療利用のための大麻製剤の製造は今後も続けるべきであるとしている。

だがウットン報告も前述のラガーディア報告と同じように、「薬物探究者の憲章」としてマスコミや議会に激しく非難されることになった。1960年代に入ると大西洋両岸の国々で大麻が中産階級の若者に広く行き渡るようになり、この問題に対する一般大衆の認識も変化を見せていた。

大麻の使用はヒッピーのカウンター・カルチャーが台頭し、若者の間に社会からの疎外感がたかまるなかで一種のシンボルとなっていた。おそらくはこうした状況を踏まえたのだろう、英国の内務大臣ジェームズ・キャラハンは、報告提出直後の議会での発言でウットン報告を無視している___

1967年、タイムズ紙にかの悪名高い広告が掲載されたとき、大麻の合法化に荷担するロビー勢力があると知って大方の人はショックとはいえないまでも、驚きを覚えたことだろう。(中略)いわゆる自由放任社会のひとつの局面なのだろうが、私の決定が議会にこうした放任主義の進展にストップをかけさせる役割を担うとしたら幸甚のいたりである。

各国の報告

英国でウットン報告が公表されたのとほぼ同じころ、米国の保険教育福祉省は「大麻ならびに薬物乱用に関する全米委員会」を介して、同国内でマリファナの使用が及ぼす影響についての継続的研究を開始した。「マリファナ__誤解のシグナル」と題された一連の報告の第1弾(全米委員会.1972(シェーファー委員会報告)とも呼ばれる)は大きな反響を呼んだ。

ウットン報告よりさらに踏み込んだ報告で、個人で使用するための少量の大麻を個人的に所持したり、他人に分け与えたりする行為は犯罪とみなさず、公の場で大麻を所持している場合には最大1オンス(28g)まで、100ドルの罰金を課すべきことを勧告している___

マリファナの使用は、吸引したり吸引の目的で所持している者が刑罰の対象となるほど重大な問題ではない。

予想された通り、ニクソン大統領は全米委員会の勧告をたちどころに拒み、数多くの陣営から敵意に満ちた反応が寄せられることになった。1年後、全米委員会は第2弾の報告「全米における薬物使用-将来的見通しにもとづく問題」(全米委員会.1973)を公表したが、これは前回の勧告を翻すものであった___

マリファナの潜在的リスクは、強力な精神活性薬に比べればいたって小さく、広範に消費されたとしても現在、ほとんどの興奮剤や抑制剤の使用にともなって発生しているような社会的費用には及ばない。(中略)だが委員会としては、マリファナの利用が現時点で制度化されるべきではないことを確信している。(中略)われわれの勧告をめぐってこれまでに行われた議論からいって明白なのは、刑罰の廃止は禁止令をひきつづき施行したとしても、現時点では大方の人間にとって許可を意味してしまうということである。委員会が残念に思うのは、マリファナの象徴主義がいまだにきわめて強大で、合理的な政策を施行するさい、その妨げになるという点である。

カナダでは「ラ・デイン報告」(カナダ政府.1970)が大麻の使用について詳細な調査を行い、やはりたんなる大麻所持の場合、禁止令を撤廃すべきことを勧告している。ラ・デイン報告の著者も、大麻が中毒性の薬物であるという証拠はほとんでみられないという結論に達している。同時期に公表されたほかの報告と同じように、カナダ委員会も憂慮すべき点をほとんど指摘していない___

全体的に見て、大麻による肉体的・精神的影響は、現在北米地域で見受けられる使用量であれば、アルコールの過剰摂取の場合に見られる結果に比べてはるかに些少であると思われる。

オーストラリアとニュージーランドでは、1971年に公表された薬物の取引と薬物乱用に関する報告書が、同地域が大麻栽培に適した環境であることも手伝って、大麻の使用が急速に伸びていることを明らかしている。報告書の著書はこれに驚いた様子も見せず初犯であれば措置の対象とせず、罰金刑の執行猶予とすべきことを勧告している。

1970年代初めは、マリファナを比較的安全な薬物として受け入れる風潮が頂点に達した時期である。世界各地のさまざまな専門家グループがこの問題を取り上げ、大麻がきわめて危険な薬物で使用者の精神的・肉体的健康に即刻、悲惨な結果をもたらすという当時一般的だった見方を覆すのに一役買っている。タバコ喫煙の場合、深刻な健康上の結果が現れるまでには20年間かそれ以上、持続的に吸いつづける必要があるが、大麻ブームの高まりのなかではこうした実例も忘れられがちであった。

1970年の一時期には、米国でも世界のそのほかの地域でも、大麻の非犯罪化がすでに認められたかのような雰囲気であった。ジミー・カーター大統領は大麻の非犯罪化に好意的で、次にようなコメントを残したと伝えられている___

薬物に対する刑罰は、使用者に薬物の使用そのものよりも大きな危険をもたらすべきではなく、そうした刑罰のあるところから改めていかなくてはならない。(zimmer&Morgan.1997)

だが1970年代後半~80年代にかけて、活発は反マリファナ運動が勢いを得ることになった。とくに米国ではその傾向が著しかった。マリファナに反対する論拠は主に道徳的なもので、政治家やマリファナの副作用だけを喧伝しようとする科学者や精神科医に後押しされていた。

現在ニューヨーク大学で研究を行うガブリエル・ナハース教授はとくに声高に発言し、大麻に反対する人たちに平然と偏見を飢えつけていった。彼の著書「マリファナ__欺きの草」(1973)と「その草に近寄るな」(1976)は、当時の議論に光明を投げかけたというより、それを煽る助けになった。

このキャンペーンには大麻を吸った経験はないものの、大麻が自分の子供たちに及ぼす危険を恐れる中流階級の親たちからなる善意のグループも加わった。国立薬害研究所も大麻使用による危険を世に広める動きにいっそう積極的に加わるようになり、この姿勢は現
在でも続いている(zimmer&Morgan.1997)。

米国をはじめほとんどの欧米諸国で、状況は行き詰った。多くの若者を熱中させていた大麻の消費量にはあまり影響しなかった模様だが、大麻使用を禁じる刑事制裁規定はひきつづき施行されていた。前述の通り医療利用への関心が盛り返したことで近年、大麻論争にふたたび火がついて感があるが、大麻は医療用途からも完全にはずされることになった。

その後、大麻の使用による肉体的・精神的結果を扱ったいくつかの論評が公表されている。ウェイン・ホールとその仲間たちがオーストラリア政府に答申するかたちで書いた詳細ですぐれた論評{大麻使用による健康上ならびに心理学的な結果」(Hallほか.1994)がそのひとるである。

さらにWHOによる報告「大麻__健康上の見通しと研究課題」(WHO.1997)がある。だがこれらの論評は主に1960年代~70年代にかけて行われた研究にもとづくものである。大麻研究の分野は1980年代、どちらかというと停滞傾向をみせていたのであった。

1990年代になって体内でカンナビノイド受容体や内因性カンナビノイドが発見されてことや、大麻の医療利用への関心が高まってきたことで、研究活動はふたたび活況を呈している。

出典:マリファナの科学