薬物戦争が狡猾な密売業者を生むという皮肉な現実

政治家はしばし自分たちが何かやっていることを有権者に示すために、薬物戦争に関する発言を発展させることがあります。しかし、今月初めにトランプ大統領が薬物密売人の死刑を支持すると発表したように、何世代にもわたる教訓を無視することは稀です。

このアイデアは異常です。しかし、薬物戦争は初めから間違っていたのです。

薬物戦争の失敗

数人の個人の密輸人を死刑にしたところで、それはほとんど抑止力にはならないでしょう。なぜならそこには標的にすべき国際的な麻薬取引の最高司令部も、農家、密売業者、マネーローンダラー、ディーラー、使用者の組織的降伏を命令する司令官もいないからです。麻薬取引は広がっており、生産者から消費者までの距離は何千マイルにもなることがあります。貧困、強欲、中毒などさまざまな理由から、またいつか抜けられると信じているから人々は麻薬経済に入り込みます。ほとんどの人は逃れます。死刑は、逮捕されたほんの一握りの人々(多くの場合、マイノリティであり、下っ端の運び屋です)に苦痛を与えるだけです。

間違いなく現場では死刑の脅威のおかげで、密輸網の中にいる別の人にリスクの高まった保険料を請求できるので、死刑は捕まらなかった人に役立ちすらするでしょう。逮捕や刑罰のリスクは、薬物が農場から加工実験室へ、ジャングルを横断し、街や海、国境を越えてディーラーによって流通され、消費者によって購入されていくごとに高まります。密輸網の中にいる密輸人に対するリスクが高ければ高いほど、支払いにおいてより高額を要求できるのです。

薬物戦争がなければコカインやヘロイン、大麻、覚せい剤といった薬物は、製造するのに1投与分あたり数ペニーの費用がかかる最低限処理された農産物や化学製品なのです。しかし政治家は薬物禁止と呼ばれる現代の錬金術を発明しました。この錬金術は、比較的無価値な製品を、人々がそのために進んで人殺しをしたり死んだりするような非常に高価な商品に変換させました。

1つの国に別の国に対する影響力を与える可能性のある強硬な対策は、自分たちの供給網の一部を通じて薬物を動かすだけでいい個々の関係者にはほとんど影響を与えません。実際、薬物をこれまでになく価値のあるものにすることによって、政治家がまさに止めようとしていた人々の動機付けの反応を強化しただけなのです。

数十年間にわたる集中的な取締に対する過度の依存は、麻薬取引の“ダーウィンの進化”のような急速な進化をももたらしました。通常、逮捕されてきた人は逮捕されるほどの間抜けである傾向にありました。これらの人々は作戦の安全対策に違反したのか、自慢しすぎたのか、疑わしい生活をしていたか、縄張り争いに関与していたのかもしれません。通常、捕まえそこねた人物こそが最も革新的で、適合性があり、狡猾なものであることが多いです。私たちは彼らに対して的外れな競争を狙い撃ちし、最も効率的な組織に対する儲かる密売経済空間を解放してしまいました。まるで私たちが最高の密売人を育てるための数十年間にわたる選択飼育政策を行い、「適者生存」を保証したようなものです。

トランプが支持する外国の死刑制度の実態

トランプ大統領は死刑の実例を裏付けるために、他国の苛酷な刑罰を引用しました。イランは薬物事件に置いて大々的に死刑を採用してきましたが、それでもなお280万人のイラン人が違法薬物を使用しています。今年のはじめ、イラン政府はほとんどの薬物事件において死刑の実行を撤廃し、最大5000人の死刑囚が舒明されました。

トランプ大統領はしばし、12,000人〜20,000人の命をほぼ司法管轄外で殺害したと主張するフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領による残酷な薬物戦争を賞賛します。しかし、薬物使用が実際に減少したことを示すものはほとんどありません。実際、死刑数が増加するにつれ、政府による薬物使用推定数も増加しました。2016年の初めには180万人と言われていた薬物使用者が300万人、400万人と増えていきました。2017年9月にフィリピンのアラン・カエタノ外相は推定数を700万人まで上げました。高い数字は誇張されているようですが、それでも死刑の増加によって薬物使用者数は減っていないようです。

シンガポールは悪名高く信頼できる薬物使用統計の公開を拒否しているので、死刑が薬物使用に測定可能な効果をもたらしているか知る術はありません。しかしハームリダクション・インターナショナルによると、2016年シンガポールにおけるヘロインの押収量は横ばいでしたが、大麻と覚せい剤の押収量は20%増加しました。さらに、シンガポールの受刑者の80%が薬物関連の犯罪で投獄されています。これらすべてが示唆するのは、シンガポールにおける薬物問題を解決するための有名な解決策は、見た目ほど奇跡ではないということです。

国境の壁がもたらしうる弊害

トランプ大統領はまた、過剰摂取を減らすための方法として国境の壁に言及しました。この壁がヘロイン密輸を大幅に減らすという起こりそうにない出来事において、実際は国内の過剰摂取を激増させる可能性があります。なぜなら、壁は密売人に利益を絞り出すために、残りのヘロイン供給量にさらにフェンタニルという混ぜ物をする動機を与えるからです。フェンタニルはヘロインよりもずっとコンパクトかつ入手も簡単で、ヘロインよりも劇的に強力です。

トランプ大統領はオピオイドに対処するための新たな戦略を進展させていません。1994年犯罪法の一環として死刑を有効としたのはクリントン大統領でしたが、それは使用されないままでした。トランプ大統領とジェフ・セッションズ司法長官はそれを変えようとしています。最高裁判所が死刑は死という結果を伴った犯罪にのみ適用されるべきであると裁定したにも関わらず、彼らは、これらの法律を恐喝事件や大量の薬物が関わる事件に適用したいと考えています。

2018年のトランプ大統領は、1990年にマイアミ・ヘラルド紙に次のように語ったトランプ氏から学ぶべきでしょう。

「私たちは薬物戦争にひどく負けています。戦争に勝つためには薬物を合法化しなければなりません」

参照:The New York Times