カンナビノイド・システムへの刺激が癲癇治療に可能性

カンナビノイド・システムと癲癇発作の関係性

ロシア科学学会の理論実験生物物理学研究所とモスクワ物理工科大学の研究員らによる報告が、このたび『ブレイン・リサーチ』誌において掲載された。脳内カンナビノイド・システムを薬物投与によって起動させることで、癲癇を抑制したという動物実験についてである。

癲癇は、ヒトの持つ最も一般的な慢性神経障害のひとつだが、その特徴は頻発する痙攣性発作である。脳内のどの部分が病理学的影響を受けているかにより、様々な種類の癲癇が確認されている。

薬剤耐性のてんかん患者に朗報

例えば側頭葉癲癇は、脳の側頭葉で発作が起こる症状である。この側頭葉で起こる癲癇の病理学的変化を効率的に保護する方法が、ロシア科学学会とモスクワ工科大学の神経系研究所で発見された。

現在の所、側頭葉癲癇は決め手となるような治療方法が確立されていない。したがって、発作の薬物治療は、記憶、集中、思考といった各種の脳内活動には逆効果を起こす可能性があり、患者のおよそ3分の1は薬剤耐性であると言われる。こうした薬剤耐性の患者の場合、海馬を切除しなくてはいけないという過酷なケースもある。

側頭葉にあるこの海馬は、短期記憶を作ると共に、短期記憶の情報を長期記憶に書き換える役割をも果たす。ゆえに、海馬の切除によって、新しい情報を記憶することができなくなってしまうのだ。

海馬を切除しないで済む方法を発見

こうした弊害に対し、研究者たちは、癲癇が進行する中でも海馬を切除しなくても済むような方法を模索してきたのである。

癲癇発作を誘導する神経毒を注射する動物実験が、モルモットの側頭葉癲癇に対して行われた。研究チームは、モルモットの海馬を始め、脳内におけるその他の関連領域に電極を挿入。発作の発症まで脳振動を観測した。

「モルモットに、脳内のカンナビノイド・システムを起動させる薬剤を注射することによって、神経毒にさらされたモルモットの癲癇発作の発症がかなり軽減され、また抑制されることがわかりました」と、ロシア科学学会のバレンティナ・キチジナ博士は語った。

癲癇治療に関する目覚ましい進歩

ロシアの大学と学会の研究員で構成されたチームにより、カンナビノイド・システムを刺激することにより癲癇の発作をコントロールするメカニズムについて報告がなされたとのニュースについて触れた。この医学的進歩により、薬剤耐性を持つ癲癇患者にも治療の可能性が拡がったと言える。

この進歩は更に言うと、側頭葉の海馬を切除しなければならなかった従来の治療法を変えることができるかもしれず、癲癇治療を扱う医療関係者には大きなニュースとなっている。

内因性カンナビノイド発見の歴史

カンナビノイドとは、大麻草が含有する化学合成物の一種である。この成分は大麻草が含有するのみならず、我々の様なヒトを始めとする多くの生体が、もともと体内に有していることでも知られている。これを「内因性カンナビノイド」と呼ぶ。生体が持つこの内因性カンナビノイドは、脳内や神経系の細胞で発生し、母乳などにも含まれている。

1992年、ラファエル・メシュラム博士は、脳が脂肪酸を分泌することを発見した。その後、カリフォルニア大学でも、脳が分泌する脂質が発見されている。これら脂質こそが、脳によって生成されている内因性カンナビノイドであった。

カンナビノイド・システムは脳の恒常性を維持し、興奮状態にあったり、活動を止めている神経系を調整する役割を担っている。このシステムは同時に、免疫系の調整をも司っている。

ロシアのシュビナ博士、カンナビノイド・システムの研究で受賞

このたびロシアで報告されたのは、カンナビノイド・システムを起動させる薬剤の投与により、脳内の電気的活性の正常化が促されることが、研究者によって証明されたことである。さらに、海馬と中隔内側核とのバランスを調整し、海馬の病理学的高周波リズムを取り除くことに成功した。

「今回の海馬組織の研究は、目覚しい結果となりました」と、キチジナ博士はコメントした。「うちの若い研究員であるリウボフ・シュビナ研究員は、特殊なソフトを使いスライスした海馬にある無傷の細胞の数を調べました。そこで分かったのは、カンナビノイド・システムを活性化する薬剤の投与が、海馬の損傷を防ぐことです。この研究により、シュビナ博士は大統領より賞を授与しております」

シュビナ博士の発見について詳述する。

1.海馬組織の研究に進歩

カンナビノイド・システムを起動させる薬剤の投与で、脳内の電気的活性の正常化が促されるというロシアでの発見について言及した。この実験により、海馬と中隔内側核とのバランスが調整され、海馬の高周波リズムを除去することも成功している。

この海馬組織に関する研究ではリウボフ・シュビナ研究員が、海馬にある無傷の細胞の数を調べ、カンナビノイド・システムを活性化する薬剤の投与が、海馬の損傷を防ぐことを発見。シュビナ博士の大統領からの受賞につながったのである。

2. 数学的アプローチで海馬組織を調査

シュビナ博士の研究について具体的に説明すると、まず特殊ソフトを用いて、輪切りにされた海馬を細かく調べ上げられた。これにより、神経の活動および細胞密度が入念に調査されている。さらにそれを定量化することで、脳の客観的な変化が観測された。そこでわかったのが、カンナビノイドの影響力である。

脳内に存在する様々な構造に対し、カンナビノイドが複雑な作用を及ぼしていることが分かったのだった。
モスクワ物理工科大学で教鞭をとるルービン・アリエフ博士は、今回の研究をこう評価する。

「データ処理を最新の数学的アプローチで行うことが必要であり、この処理方法が正しく、結果が統計的に有意義であることを内外に証明する必要がありました」。

3. 脳疾患治療にも応用できる可能性

電気で脳内を正常に活性化することと並行して、実験動物の海馬組織の状態を改善し、癲癇状態における神経毒性を明らかにする実験において、エンドカンナビノイド・システムへの刺激は、癲癇の治療への新しいアプローチとなるであろう。

同時に言えることは、この研究が神経障害による脳疾患の治療において、エンドカンナビノイド・システムの治療が可能性を秘めていることを示唆しているのではないだろうか。