2018年9月中旬にGREEN ZONE JAPANがコロラド州からてんかん専門医であるエドワード・マー博士を招致し、各地でイベントや講演などが行われました。
マー博士は、医療大麻がアメリカでもいち早く(なんと1998年!)合法化されたコロラド州でてんかん治療を専門とし、大麻やCBDオイルの効果を目撃されてきた方です。
日本では大麻がタブーとなっているため、普段なかなか知ることのできないCBDや医療大麻を用いたてんかん治療について、マー博士に詳しくお話しいただきました。
コロラド州は医療大麻の解禁がアメリカ国内で2番目に導入されています。1998年に医療大麻が解禁されてから難治性てんかんを患っている方達にとってどのような変化(効果)があったのでしょうか?
てんかんに医療大麻を使用していた人々の大半が、従来の治療薬が効かない難治性の方々でした。
初期のケースのほとんどが幼い子供で、レノックス・ガストー症候群やドラベ症候群、ドーゼ症候群といった重度のてんかんを患っていました。
最初に医療大麻を使用していた40人の子供たちを再調査したところ、平均して11~12種類の治療薬が効果を示していませんでした。
ケトン食療法や迷走神経刺激療法もダメでした。医療大麻は、発作を頻繁に起こす子供達の親にとって最後のチャンスだったんです。
より多くの情報が出るようになった今は、人々はより早い段階で医療大麻を試していますが、最初の患者たちは本当に行き詰まりの状態でした。
2~3割の難治性てんかん患者は抗てんかん薬を使用しても発作が止まらないにも関わらず、カンナビノイド(CBD)を摂取することで発作が軽減される事例があります。
世界人口の中でてんかん患者の割合は1〜3%でしょう。そのうち1/3にどの薬も効果を示しません。これらの患者が手術や新薬などを求めます。
私たちは医学的にカンナビノイドやCBDを、治療が困難なてんかん患者が試せるもう一つの医薬品であると考えています。
最近ではエピディオレックスの治験で、このタイプの医薬品が発作抑制に効果的であるケースがあることをデータが示しています。
しかし、すべての難治性てんかんに効果があるわけではありません。
てんかんの根本的な原因に対してはどのような作用を及ぼすのでしょうか?
てんかんを引き起こしている原因を無効にするという意味であれば、これに関してはCBDにもどんなタイプの治療薬にも経験がないことです。
発作をコントロールすることは可能ですが、原因を解消することはできていません。
その後、カンナビノイドやCBDオイルの摂取をやめたら発作は戻るのでしょうか?
おそらくそうなるでしょう。てんかんは慢性疾患なので治療薬が効けば最高で、発作を抑制し、うまくいけば発作を止めることができます。
しかし、糖尿病などのその他慢性病と同じように、治療薬をやめても病気はそのまま残っている状態です。このプロセスを無効にできたという証拠はありません。
CBDが効果を示した場合は、他の治療薬を少しずつやめることができるんですよね。
その通りです。そういった例は報告されています。
発作が止まった場合は特に、多くの両親は従来の治療薬をやめたがります。その他の治療薬の断薬に成功した例は少数います。
カンナビノイドやCBDオイルを長期間摂取し続けることによって、体が慣れてしまい効果が薄くなってしまうことはあるのでしょうか?
いい質問ですね。私たちにはそれを知るための十分な長期データというものがありません。
最も長期的な例では、コロラド州のシャーロット・フィギーがいますが、彼女はCBDオイルに対する耐性はできていませんし、今でも治療開始前と比べて劇的に低い発作回数を保っています。
日本に来る前にシャーロットの母ペイジと話しました。2015年以来、話していなかったので、最新情報を知りたかったので。シャーロットは今も調子がいい状態で、1ヶ月に2、3回の発作を起こす程度だそうです。それ以前は月に300回の発作を起こしていたんです。
ですから効果は3年半〜4年間持続しています。
多くの抗発作薬にはハネムーン期という時期があります。どんな薬でも効果を感じられますが、3ヶ月後、半年後などに発作が復活するのです。
CBDも同様かなと考えていましたが、シャーロットのように効果が長持ちするケースもあります。
シャーロットはTHCが含まれているCBDオイルを摂っているんですよね?CBDが高濃度でTHCが低濃度のものだったと思いますが。
その通りです。スタンレー兄弟が作っているCBDオイルの割合は、CBD:THCが26:1です。
なので、THCはかなりの低濃度です。それにシャーロットは体が小さいですから、摂取している量も少ないです。今はもう9歳になったそうです。
難治性てんかんの方が抗てんかん薬を摂取した際の副作用は、脳機能などの発達に障害をもたすことが指摘されていますよね。
抗てんかん薬の副作用の大半は、鎮静作用です。また多くが、脱抑制といって自分の行動をコントロールする力が低くなるという副作用を起こします。
これらはよく見られる副作用です。稀なものとしては、例えば体重減などがあります。覚醒、鎮静、思考の遅れなどは、抗てんかん薬の副作用として一般的です。
これらの副作用の中で重度なものにはどんなものがありますか?
すべてはスペクトラムですから、例えば行動障害を起こす副作用については、コロラド州で抗てんかん薬レベチラセタム(ケプラ)をある患者の治療に追加したとき、患者が飼い犬を傷つけたというケースがありました。
そんなことするような人ではないのですが、犬が何か悪いことをしてしまった時に怒りが込み上げて犬を攻撃しました。この薬を飲んでいなければ起こらなかった出来事でしょう。
これは行動障害の副作用の極端な例ですが、他にも特定の薬の副作用で自殺願望が起こることがあります。ペランパネル(ファイコンパ)、リリカなどがそうです。これらのような副作用はCBDではみられません。
カンナビジオール(CBD)に関しては、眠気などの副作用が報告されていますね。
そうですね。眠気は最もよくみられるCBDの副作用で、エピディオレックスの治験では、約19%にみられました。
誰に対して薬を与えているのか、という点も考慮すべき点です。
CBDは肝臓の代謝を遅らせることが分かっています。レノックス・ガストー症候群やドラベ症候群を患っている子供のほとんどは、クロバザムやベンゾジアゼピンなどを飲んでいます。
CBDを摂ると、肝臓の酵素P450による代謝が遅くなるため、これらの薬の濃度が高くなり、一晩にして効果レベルは4倍にもなります。
ですから、CBDをこれから摂り始めたいという患者で他にも何種類か薬を飲んでいる場合は、通常、用量を25%下げるように勧めています。または基準値を事前に確認し、CBDをごく少量から始めることです。
なるほど。では、CBD摂取を始めてしばらく経ったら、そういった副作用は出なくなるのでしょうか?
その通りです。CBDを減らしたり、または抗てんかん薬の用量を下げたりして、薬とのちょうどいいバランスを見つけることができればね。
CBDが肝臓の代謝を遅らせるということについて。高齢者は複数の薬を飲んでいる方が多いですが、CBDを摂るときに気をつけるべきことはありますか?
そうですね。アメリカでは高齢者の服用薬の平均的数字は14種類です。
ですから、薬理学的にとても難しい判断です。肝臓で代謝されるタイプの薬はすべて、潜在的に問題があると思います。
特に、ワーファリン、抗凝血剤、ケトコナゾール、抗真菌薬、化学療法の薬などは、代謝酵素P450の阻害によって影響を受けるでしょう。
医師の観点から言って、常用薬があってCBDを摂るときは医師に正直に話した方がいいと思います。
CBDオイルを摂取してもよい子供の最低年齢というのはありますか?
日本で聞いた生後6ヶ月というのが私の知る限り最年少の年齢です。
コロラド州ではシャーロットが最年少でしたが、シャーロットは5歳でしたから。
アメリカでは5歳以下の子供にCBDを処方しないのですか?
CBD療法を見つけたのは医者ではなく親たちなんです。
私は成人向けのてんかん医で、一般的に子供の診療はしていないので、個人的にはシャーロットより年少の子供が使用している例を知りません。
ですが、今ではいるかもしれませんね。
それほど小さい子供に与えても安全だと考えていますか?
難しいところですね。私がCBDの話を始めたとき、年配の教授陣は憤慨していました。
でも月に300回もの発作が脳にひどい悪影響を与えるのに、どうしてCBDの方が悪いと言えるでしょうか。
アメリカでは妊娠中は医療大麻の摂取が推奨されていませんが、CBDオイルの場合はどうですか?
私はCBDオイルも妊娠中は推奨できませんね。
とはいえ、実際には妊娠中に摂取している人々はいます。
しかし合理的な医者でそれを推奨する人はいないでしょう。なぜなら、どんな影響があるか分からないからです。
特にアメリカでは、何か起これば医師の責任ということで訴えられることもありますからね。
裏付けるデータがないのです。アメリカでは、特に出産に関して医師たちは何を妊婦に勧めるかについては非常に保守的ですね。
CBDオイルと難治性てんかんについては、多くの世界で騒がれていますが、CBDがもたらす効果とCBDAがもたらす効果どちらが有効なのでしょうか?
個人的にはその効果の違いは認識していません。どちらかを特に患者に勧めることがないので。その違いを主張するのに十分な科学的データはないと思います。
とはいえ、人々がますます医療大麻を使用することに抵抗がなくなっていくにつれ、今ではエピディオレックスも承認されましたし、人々は効果の違いを発見し始めるかもしれません。
それは現時点では分かりませんが、5年後には話が進んでいるかもしれませんね。
エピディオレックスは100%CBDの医薬品ですか?
そのように主張していますが、実際は99.99%なのではないかと思います。9月末までに発売される予定です。
6月に承認されましたから、麻薬取締局はその後90日間でCBD薬であるエピディオレックスの分類を決めなければなりません。もうすぐ90日経ちますね。
患者はエピディオレックスを使いたがると思いますか?
最も重度のてんかんを患っている患者は、非常に強い関心を持っていると思います。
すでにCBDオイルを使用して効果を得ている患者についてはどうでしょうか?
いい質問ですね。すでにCBDオイルを使用していて効果を得ている人が、エピディオレックスを使いたがるかは保険によるでしょう。
コロラド州、そしておそらくワシントン州やカリフォルニア州ではまだ、この議論について2つに分裂している傾向にあります。
医療大麻の熱心な支持者になった人たちは大麻製品こそがいいのだと主張しますが、保守的な医師たちはエピディオレックスを使うべきだと言います。
しかし、CBDについて安心できるようになれば、一部の医師は考えを改めるでしょう。
エピディオレックスは99.9%CBDなのだとしたら、アントラージュ効果は期待できませんよね?
それは課題ですね。第一に、アントラージュ効果は本当にあるのか? 0.3%未満のカンナビノイドによってどんな影響があるのか?
それは分からないのです。
頭に浮かぶ最も興味深い研究は、シャーロッツ・ウェブのような製品とエピディオレックスの患者集団を基準に照らし合わせることです。
誰がそんな研究に出資してくれるかは分かりませんが。どちら側にも失うものが大きすぎますからね。誰かが協力してくれれば、喜んでやりたいですね。
個人的にアントラージュ効果についてどうお考えですか?
初期にアントラージュ効果について議論していた出資者は、GWファーマシューティカルズ社の人物で、GWは当時サティベックスを開発中でした。
CBDとTHCを1:1の割合でサティベックスを作るために、アントラージュ効果について主張していたわけです。
FDA(食品医薬品局)がCBD薬であるエピディオレックスを承認した今、アントラージュ効果について話している人はあまりいません。
研究をする価値はあるとは思いますが、アントラージュ効果を持ちうる製品とそうではない製品を比較研究する以外に方法はないと思います。
カンナビノイド関連の臨床実験が行われている事例はありますか?
GW社はある植物性カンナビノイドの成分について積極的に調べています。
CBDVもその一つです。それはオーストラリアだったかもしれません。それ以外には特に思いつきません。
CBD単一のCBDオイルとCBDを含むカンナビノイド類・テルペン・天然分子が含まれているCBDオイルどちらが難治性てんかんに効果的だと思われますか?
他の抗発作薬と同じように、それは患者によると思います。
私にとって利用しやすいのはどちらか、と言われれば、それはエピディオレックスです。現時点ではね。
でも、それは変わるかもしれません。コロラド州では多くの人が大麻全草を使用しているので、私はその両方を使用した人を6ヶ月から9ヶ月かけて調査したいですね。
そしてその2種類が発作頻度や気分などにどのように影響したか知るために、データを総合したいです。
難治性てんかんに対するCBDの明確な摂取量などがありましたら教えてください。
興味深いことに、FDAはエピディオレックスを体重1kgあたり20mgで承認しました。
シャーロッツ・ウェブを使用しているROC(レアルム・オブ・ケアリング)が、登録している患者から、優れた効果が報告されている摂取量の平均値を調べたところ、それは体重1kgあたり2mgだったんです。
10倍の違いですよね。
そこで疑問となるのは、これはアントラージュ効果があるためにそれほど必要としないのか、ということです。
それは可能性としてあると思います。
もう一つの可能性としては、大麻の全草に含まれるTHC量が10倍も摂取すると不快なレベルになるのかもしれない、という点です。
それは分かりません。十分なデータがないのでそれ以上のことは言えませんが。
最後に
貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
10年以上にわたる難治性てんかんの治療や臨床試験に携わった体験で培われた知識や洞察力に触れることができ、とても有意義なインタビューを終えることができました。
マー博士のお話からもうかがえるように、今年GWファーマシューティカルズ社が開発したエピディオレックスがFDAに承認され、まもなく発売開始されることは、今後のCBD業界を大きく変える画期的な事件になるでしょう。
結果的に、日本を含め多くの国でCBDオイルや医療大麻をめぐる社会認識が変わっていくかもしれません。
そのなかで、難治性てんかんに苦しむ患者を含め、本当に必要としている方にCBDオイルが届くようになることを願います。
エドワード・マー博士 プロフィール
コロラド州立大学医学部 神経学准教授。
難治性てんかんの治療を専門とし、抗てんかん薬開発のための臨床試験にも関わっている。
デンバーにあるコロラド大学でてんかん特別研究員(2005-2007年)および神経科の研修(2002- 2005年)を終了。
博士の臨床研究の対象は、医師としての初期訓練中に患者を診察した経験に端を発するもので、コロラドは医療大麻を早い段階で合法化した州であることから、てんかん患者の 治療に大麻が使われるのを 10年以上前から見てきている。
シャーロッツ・ウェブ (CW) の名の由来にもなったシャーロット・フィギーの母親 ペイジ・フィギー 、CW で CBD オイルを製造しているスタンレー兄弟らとも協力し、CBD オイルによる治療効果についての研究にも積極的である。