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大麻のめざす薬効とは?

大麻とがん治療

大麻製剤の薬効についてもっとも強力な科学的証拠が示された疾患には、最近になって新しい、いっそう強力な薬剤が開発されたために、皮肉にも現在では差し迫った医学的必要は認められなくなっている。

しかし、1970年代~80年代初めにかけてカンナビノイド製剤のドロナビノールとナビロンが初めて試験されたころは事情が違っていた。1960年代~70年代にかけて、腫瘍細胞の成長を抑えるますます強力な製剤を使ってのがん治療が大きな進展を見せていた。

新しい科学療法薬は抗がん剤としていっそう大きな効力を示すようになったが、同時に強い副作用をもたらした。1997年の英国医師会報告には次のような記述がある。

医学においてもっとも悩ましい症状のひとつは、数多くの抗がん剤による治療にともなって日常的に起こる長期に及ぶ悪心や嘔吐である。これが深刻なあまり、患者は治療を恐れるようになる。治療を受けている病気そのものより副作用がひどく感じられる人もいれば、症状が耐えがたいために、悪性疾患があるにもかかわらずそれ以上の治療を拒む人もいる。

もっとも効力のある抗がん剤のひとつは白銀を含有する化合物であるシスプラチンだが、残念なことにこれもまた、悪心と嘔吐を引き起す力が非常に強い。この薬を投与されたがん患者はほぼ決まって悪心と嘔吐を経験し、鎮吐剤を投与しないかぎり平均して最初の24時間に6回の嘔吐を起こすようになる。

1970年代~80年代にかけておこなわれた適切な照査をともなった臨床試験の結果が示すかぎりでは、2種類のカンナビノイド製剤、ドロナビノールとナビロンが1980年代初めに出回っていた比較的効力の小さい薬剤に比べ、潜在的に大きな進歩を遂げているものと考えられた。

当時もっとも広範に使われていた鎮吐剤はクロルプロマジン、プロクロルペラジン、ハロペリドール、メトクロプラミド、ドンペリドンだったが、いずれも化学的メッセンジャーであるドーパミンの拮抗薬として作用する。ドロナビノールがプラシーボプロクロルペラジンと対照されたさまざまな臨床試験では、各種のがんをわずらう都合454名の患者がドロナビノールを服用している。

用量は1日に2.5mgから40mgまで、4~6時間ごとに等分に分割されたものが投与された。患者のほぼ3分の2が悪心や嘔吐の完全な抑制、または部分的な抑制を経験したが、高い用量になると多くの患者に不快な向精神効果が見られるようになった。適量はほとんどの患者の場合、1日に3~4回、各回5㎎と考えられる(論評は英国医師会報告.1997)。ドロナビノ
ールの鎮吐剤としての使用は、さまざまな動物モデルを使った実験でもその効力が示され、支持されるかたちとなっているが、正確に脳内のどこで作用しているのかはいぜん、不明である。

ナビロンに関しては、500名以上の患者を使った20件前後の別個の臨床試験が報告され、その多くが同一の患者でナビロンとプロクロルペラジン、またはほかの鎮吐剤を直接比較するために、二重盲検クロスオーバー試験の形式をとっている。ナビロンはプロクロルペラジンと同等かそれ以上の効力を示すことがわかり、50~70%の患者で悪心と嘔吐の症状を改善させることに成功している。

眠気や頭のふらつき、眩暈といった中枢神経系への副作用が半分以上の患者で見られたが、深刻な副作用とは考えられず、ハイ(精神的高揚)を経験した患者はわずかな数(約15%)にとどまった(Lemberger.1985)。製薬会社ではナビロンを陶酔効果をともなわない制吐剤としsて使用できると考え、食品医療品局(FDA)から商品化の許可を取りつけることにも成功した。しかし麻薬取締局(DEA)ではナビロンはいぜん、大麻との類似性が高いとの結論に達したことから、「等級Ⅱ」の規制品目に分類した。

つまり一定の医学的有用性があるにもかかわらず、これを中毒性のある潜在的に危険な薬剤としてみなしたのである。等級Ⅱへの分類はイーライリリー社を失望させる結果となった。等級Ⅱに指定されることで、この薬剤を扱う会社や医師たちに安全管理と詳細な記録が求められ、それが重荷となったのである。同社はこの分野の研究に興味を失い、ナビロンに対して大きな販売努力を払わず、この製剤はほとんど一般に普及せずに終わっている。

適切な照査をともなった臨床試験から得られたこれらのデータが重要なのは、大麻製剤に関して以上のような結果を得ることができる事実を示しているからだが、医療現場ではいまだにドロナビノールとナビロンは普及していない。鎮吐剤としてのこれらの2種類のカンナビノイドの有効量は鎮静効果や陶酔効果をもたらす量にきわめて近く、投与できる用量が限られてくる。

大麻を飲んだ経験がまったくない患者は、一般に大麻製剤の向精神効果を不快で不安をもたらすものととらえる。がん治療にともなっておこる悪心や嘔吐の治療に関して言えば、1980年代に新しい、より効力のある薬剤が開発されたことから、ドロナビノールやナビロンの価値は低落している。この間に登場した一連の新薬は、化学的メッセンジャーであるセロトニン(生理活性アミンの一種。平滑筋や血管の収縮・止血などに作用し、脳の活動を高める)の受容体のひとつを遮断することで作用する。

これらの化合物が標的にする5-HT3受容体は、嘔吐反射にかかわる神経系内の神経回路で重要な役割はたしている。その嚆矢であるオンダンセトロン(ゾフラン)は高い有効性を示し、これに続いてグラニセトロン(キトリル)やトロピセトロン(ナヴォバン)といった新薬が登場した。こららのセロトニン拮抗薬はドロナビノールに比べ、いくつかの利点を備えている。カンナビノイドの有用性を制限することになる向精神的な副作用がなく、大半の患者で悪心や嘔吐を抑制することができる。

また非水溶性のカンナビノイドと違い、セロトニン拮抗薬はたやすく溶解して静脈注射を行うことができる。セロトニン拮抗薬は通例、がんの化学療法や放射線治療で最初の静脈注射として使われ、このあとの数日間に経口の錠剤が投与される。セロトニン拮抗薬はしばしばこれと併用されるステロイド・デキサメタゾンとともに、80~90%のがん患者で悪心や嘔吐を申し分なく抑制する結果となっている。

これらの新薬の導入はがん治療の現場を大きく改善し、新薬は広い範囲で使われるようになった。米国で1000名以上のがん治療専門家を対象に行われ、1997年に公表された調査では、全国の98%以上がセロトニン拮抗薬を処方した回数が1992年~1994年の間に5倍以上になったと答えたのに対し、この海田にドロナビノールを処方したのはわずか6%___という結果になっている(Schwartzほか.1997)。

予測しがたい副作用をともない、吸収率もまちまちなドロナビノールに対しては、もはや大きな需要は見られない。ただしセロトニン拮抗薬に良好な反応を示さない少数のがん患者に対しては、さらに新しい薬剤の登場を待つべき余地があるのかもしれない。

効力のあるもうひとつの合成カンナビノイド、レブォナントラドールを使った制限臨床試験では、この化合物もまた鎮吐剤として有効であることがわかっているが、中枢神経系への副作用のためにその有用性が制限されている。イスラエルでドロナビノールの近親物質Δ8-THCを使って行われた臨床試験では、ある程度刺激的な結果が示されている。がんの化学療法を受けている8人の子供のうち、全員がこのカンナビノイドの経口投与に対して良好な反応を示し、中枢神経系への副作用も最小限に抑えられたのである(Abrahamovほか.1995)。

しかしこの結果をフォローする追跡試験が行われておらず、Δ8-THCがドロナビノールをに比べ、中枢神経系に副作用を及ぼす可能性が低いと考える根拠はないようである。吸引マリファナががんの化学療法を受ける患者の悪心や嘔吐症状を抑える効果を見る臨床試験も、何例か行われている。このような試験はその性格上、盲検化することが困難だが、一部の試験ではあらかじめTHC成分を抜き取ったプラシーボ(偽薬)のマリファナ煙草が使われている。

ノースキャロライナの三角座研究会は1970年代に米国政府から委託され、臨床研究試験に使うTHC含有量の一定した規格化マリファナ煙草(ミシシッピ大学で栽培された大麻を使用)やプラシーボ煙草を生産している。しかし熟練したマリファナ使用者はTHCを実際に含んだ煙草とプラシーボをたやすく区別してしまい、適切に盲検化された試験の実施が困難になっている。

こうした困難もあって、これまでにほんのわずかな数の比較臨床試験しか報告されていない(米国国立衛生研究所=NIH=によるマリファナの医療利用に関する報告.1997;米国医師会=AMA=による医療大麻に関する報告.同年)。ある試験では、吸引マリファナと経口投与されたドロナビノールが20人のがん患者を対象に、無作為選択クロスオーバー試験方式で比較された。

治療効果がみられたのはわずかに25%の患者で、経口薬と吸引薬の好みについて尋ねたところ、45%がどちらとも答えず、35%がドロナビノール、わずか20%が吸引マリファナを挙げる結果となった(Lebittほか.1984)。これより大きな規模の一般臨床試験では、吸引マリファナがほかの薬に対して良好な反応を示さなかった74名のがん患者に投与され、試験さ
れた。

18名の患者がマリファナの煙を耐えがたいものと考え、毛校のドロナビノールを選んで試験から脱落した。残る56名の患者のうち、18名(34%)が吸引マリファナを非常に効果的ととらえ、26名(44%)がほどほどに効果的ととらえたが、12名(22%)はまったく効果なしと報告している。鎮静効果は全患者の88%で見られ、口の渇きが77%、眩暈が39%、有害な副作用がまったく現れなかったのはわずか13%にすぎなかった(Vinciguerraほか.1998)。

ほかの試験では吸引マリファナが経口ドロナビノールを飲んだあとも悪心や嘔吐が続くがん患者に投与されている。吸引マリファナ(数日間にわたって3~4時間ごとに服用)は著しい鎮吐効果をあげ、血漿中のTHC濃度は経口ドロナビノール服用後よりもマリファナ吸引後の方が高かった。だがこの研究はほとんどマリファナ吸引をもつ若い患者(平均年齢24歳)を対象に行われたものであった。

これとは対照的に、別の試験はマリファナ吸引の経験がまったくない中年以降の患者(平均年齢41歳)に投与された吸引マリファナについて、否定的な結果を報告している。おそらく経験がないことによるのだろうが、血漿中のTHC濃度は低い値にとどまってる。

1970年代末~80年代初めにかけて、米国の健康にかかわる複数の官庁が食品医薬品局(FDA)によって許可された試験計画書を使い、吸引マリファナについての非盲検試験を行った。試験はカリフォルニア、ジョージア、ミシガン、ニューメキシコ、ニューヨーク、テネシーの6州で合計698名のがん患者を対象に行われたが、そのほとんどがほかの鎮吐剤に良好な反応を示さなかった患者であった。

残念ながらこれらの大規模な士官は十分な照査をともなわず、プラシーボを使う試みもなく、その結果も客観的な測定法ではなく患者と医師、またはそのどちらかの評価にもとづくものであった。しかし吸引マリファナは経口投与のドロナビノールに比べて同等かそれ以上の効力を示し、プロクロルペラジン、など同時悪心や嘔吐を抑制する目的で使うことができた鎮吐剤に比べても高い効力を示すことが報告されている。

選択の自由が与えられた場合、多くの患者は経口のドロナビノールより吸引マリファナを好んだ。マリファナ吸引にともなうもっとも代表的な副作用が鎮静効果だったのに対し、経口ドロナビノールには不快な中枢神経系への副作用(発音障害や眩暈)を吸引マリファナより多く引き起す傾向があった。吸引マリファナががんの化学療法にともなう悪心や嘔吐症状の抑制に大きな役割をはたすようになる見込みは薄い。

すでに吸引経験がある場合は、吸引マリファナによって血漿中THC濃度をより正確にコントロールできるようになるが、吸引経験のない年配の患者にとっては吸引マリファナは効果的で好ましい薬剤投与手段とはなりえないからである。禁煙の徹底した現代の病院では、吸引マリファナを使った治療措置が行われる可能性は低い。だが症状を抑制すべき有効量自ら滴定できることから、一部の患者は今後も吸引マリファナによって自己治療を続けることだろう。

吸引マリファナが一部の患者に実際の薬効をもたらしていることは、疑いようのない事実なのである。

ハリス・タフトはホジキン病のために化学療法を受けていた。妻のモナ・タフトは次のように記している__
夫は言いました__もうこれ以上化学療法には耐えられない、と。夫は途方に暮れ、病気に疲れ、自分の命を長引かせるために使われる薬の副作用を恐れていました。
私はひとりの人間がああも心底から、深く怯えているのを見るのは後にも先にもあのとき1回だけでした。ハリスは治療をがんよりも恐れるようになり、そして本人が告白したのですが、死そのものよりも恐れるようになっていたのです。これ以上化学療法を受けるくらいなら僕は死を選ぶよ___夫はそう言いました。

このあとハリスは化学療法を受ける前に吸引マリファナを試すようになる。

マリファナは嘔吐を完全に抑えてくれた。

「マリファナがもたらした大きな変化を、どうやって表現したらいいのか、私にはわかりません。マリファナを使うようになる前、ハリスは始終どこかしら具合を悪くしていて、何も食べることができず、料理中の匂いにさえ耐えられませんでした。マリファナを使うようになってから夫は意欲的になり、食事も規則的に摂るようになり、本来の自分を取り戻しました。夫の気分もふるまいも、そして将来への展望も変わったのです。もちろんマリファナによって化学療法を続けることができるようになりましたから、夫の寿命も延びました。マリファナを吸っていた2年間、一度も副作用に苦しんだり困った事態になることはありませんでした。マリファナは夫ががん治療を受けた9年間に投与された薬のなかで、もっとも危険のない薬でした」
(Grinspoon & Bakalar.1993.出版社とエール大学出版局の許可を得て掲載)

がんの化学療法を受ける患者の治療にあたっては、カンナビノイドを経口投与する方法の方が有力といえそうだ。しかし臨床試験のデータは、がん患者の3分の1がカンナビノイド製剤に反応を示さず、多くの患者が向精神的な副作用を耐えがたいものととらえた事実を示している。見ずに解けないカンナビノイドを静脈注射できない点も、大きな制約となっている。セロトニン拮抗薬の登場は記述の通り、医療関係者がカンナビノイドに対して示していた強い関心に本質的に終止符を打つかたちとなった。

だが、症状がセロトニン拮抗薬によって十分に抑制されない10~20%のがん患者の治療にあたってはいぜん、新しい鎮吐剤の登場が待たれている。またセロトニン拮抗薬は、がんの化学療法のあと数日間続く遅延性の悪心や嘔吐の抑制には部分的にしか効力を示さない。少量の(向精神性のない)カンナビノイド製剤を加えることで、セロトニン拮抗薬だけ投与した場合に反応を示さない患者の一部を治療できるようになる可能性がある。

すでに一部の臨床試験のデータでは、カンナビノイドがプロクロルペラジンと併用された場合に高い効力をもつことが示されている。だがカンナビノイドとセロトニン拮抗薬を比較したり、両者の併用を試す研究はいまのところ行われていない。一方で悪心や嘔吐治療のまったく新しい手法が、ペプチド・メッセンジャー「サブスタンスP」を標的にする薬剤のかたちで登場しつつある。サブスタンスPはセロトニンと同じように、嘔吐反射をコントロール神経回路に関与する物質である。

この新しいサブスタンスP拮抗薬のひとつを使った予備臨床試験の結果はおおいに有望と考えられ、こうした製剤ががんの化学療法にともなう症状の初期段階でも遅発段階でも、その抑制にセロトニン拮抗薬より高い効力を示すことになる可能性がある。

大麻とエイズ消耗症候群

エイズ消耗症候群では、この疾患に特有の症状として食欲不振や全体重の10%前後に及ぶ著しい体重減少が見られる。1カ月かそれ以上続く消耗症候群の発症は、HIV陽性からエイズに進行したことを示す徴候のひとつとなる。消耗には慢性の下痢、脱力、そして発熱がともなう。

新しい、より強力なエイズ治療法が登場することで、将来消耗症候群が減少する可能性はあるが、現在のところこの疾患特有の徴候として患者を苦しめるものとなっている。消耗症候群の基となる正確な生理学的なメカニズムは十分に解明されていないが、体重減少は主としてエネルギー摂取量の減少に起因しているものと考えられる。

マリファナ吸引や経口ドロナビノールをエイズ患者の食欲増進剤として利用する方法には、大きな関心が寄せられている。食欲の増進、とくに甘いものに対する嗜好はマリファナを吸引してから約3時間後に現れ、マリファナがもたらす陶酔効果の特徴のひとつとして事例報告ではよく知られている。

健常者を対象にしてマリファナ吸引を使ったプラシーボ比較試験では、これが実際に起こる現象であることが確かめられている。そのメカニズムは不明だが、空腹感の増長と食べ物に対する感覚的嗜好の高まりの双方に関係しているものと見られる。健常者に繰り返しマリファナを投与した場合、食欲が増進し、カロリー摂取量にある程度の増加が認められた。だが動物を使った試験では、THCが食欲や体重に対して一貫した効力を示す事実は確認されていない。

ドロナビノールについて2番目に認められた薬効も、エイズにともなう食欲不振や体重減少を治療する食用増進剤としての使用である。一連の小規模な臨床実験が好ましい結果をもたらしたのに続き、これより大きな規模のプラシーボ比較臨床試験が139名のエイズ患者を対象に行われた(Bealほか.1995)。プラシーボと比較した場合、ドロナビノールは4~6週間にわたる治療後に統計的に見て著しい食欲の増進をもたらす結果となり、公式の試験が終了したあともドロナビノールを服用し続けた患者でこの効果は持続した。

体重については増加の傾向、悪心については減少の傾向が見られた。このケースで最適と思われるマリノールの用量は1日5㎎で、2.5㎎ずつ2回に分けて投与され、1回目は昼食の1時間後、2回目は夕食の1時間後に服用されている。別の臨床試験のデータは、ドロナビノールが、抗ウイルス薬を使った治療の結果、悪心と食欲不振に苦しむエイズ患者に対しても効果をもたらしうることを示している。

さらに別の臨床試験は、通例食欲不振やそれにともなう体重減少に悩むがん患者の場合にも、ドロナビノールが著しい食欲増進効果をもたらすことを示している。消耗症候群に悩むがん患者の場合もエイズ患者の場合も、ドロナビノールの薬効が少なくとも部分的にはこの症候群にともなうことが多い悪心症状を治癒する能力によるものなのかどうかは判断しがたい。ドロナビノールは拒食症患者に対しては薬効が効かないようである。11名の拒食症患者を対象にドロナビノールとジアゼパム(ヴァリウム)を比較した比較二重盲検クロスオーバー試験の結果、どちらの薬にも効果は認められず、ドロナビノールは3名の患者で不快な向精神反応を引き起した。

悪心や嘔吐の治療の場合と同じように、食欲増進剤としてドロナビノールを使用するさいに見られる主なる副作用は、付随して起こる中枢神経系への強い副作用である。適量を慎重に量り、食事とのタイミングを考えて投与すれば、一部の患者でこれらの副作用を抑えることができるが、経口投与された薬の作用が遅れること、長く続くことがマイナス要素である。こうした事情ゆえに、多くのエイズ患者が吸引マリファナを使った自己治療に転じている事実も、驚くにはあたらない。

吸引マリファナを使った自己治療は広範囲に及んでいるものと思われるが、残念ながらそこから得られるメリットを客観的に記録するように試みた比較試験はわずかしか行われていない。目下のどころ個々の事例にもとづく証拠しか見あたらないのである。

ロン・メイスンは1983年にB型肝炎、そしてのちにHIVと診断された。B型肝炎と診断されたあと、彼は大麻が悪心や嘔吐の症状を抑えるに効果的であることを知る。「食欲はなかったが、医者からは食べなければいけないと言われていた。肝臓の病気なので当然飲酒はやめ、マリファナを前より多く吸うようになった。マリファナを吸うと食欲がみるみる増進してくるのがわかった。

毎日吸うようになると体重も急速に増加した。2年後には抗体を生まなくなり、正式に肝炎保菌者と診断された。(中略)1984年4月、ゲイ向け性病クリニックの医者から、シカゴ・エイズ・クリニックを紹介された。同クリニックで7年間診察を受けるうちに体重が40ポンド(約18kg)増加し、正常値に復することができた。医者は私がマリファナを吸っていることを知っていたが、とめようとはしなかった。

ただし、ほどほどにとは言っていたが。貧血を起こすのでアジドチミジンは飲めない。ほかの抗ウイルス剤もみんな、肝炎に侵された私の肝臓にダメージを与えるものばかりである。3年前医者から言われたのは、私が何年かクリニックに通っていて死亡せず、重い症状にもならないひと握りの患者のひとりだということである。なぜかは医者にもわからないという。

私は自分が何とかやっている理由のひとつが、マリファナ吸引にあると思っている。マリファナは私がただ生きているというよりも、エイズとともにいきているという実感を与えてくれる。食欲が回復し、食べるようになってからは体調を崩すようなこともない。マリファナは私の精神状態をよくしてくれ、それがまた身体の具合もよくする原因となっているのである」(Grinspoon & Bakalar,1993)

実際の薬効があるかどうかはともかく、マリファナはエイズ患者の間でいたって好評である。
有名な(あるいは悪名高い)サンフランシスコ大麻栽培者クラブの1万名の会員のうち、80%までがエイズ患者だと言われている。

大麻と痛み

中枢神経系のなかのカンナビノイド系が活性化することで、とくに痛みに対する感受性が低減するという動物実験の結果が、ますます数多く報告されるようになっている。脳内での内因性カンナビノイドの持続的な合成と放出が、ある特定の時期に痛覚のレベルを設定する役割をはたしている可能性がある。

カンナビノイド系を痛覚をコントロールすることでよく知られている内因性オピオイド系に類似するものととらえる研究者もいる(Fields & Meng,1998)。2つの体系は異なるものだが、カンナビノイドがモルヒネなどのアヘン剤の鎮痛効果を高めるケースがあり逆にアヘン剤もTHCの鎮痛効果を高めるため、両者は重なり合う。

臨床的な痛みは、怪我や外科手術にともなう激しいが通常、短期間に収束する痛みから、リウマチや関節炎、がんといった病気にともなうことが多いしばしば身体に障害をもたらす慢性の痛みまで、じつに多様である。大麻の治療目的での使用に関する英国医師会報告(1997)では、次のように記述されている。

>痛みはおそらく、薬物による治療を必要とするあらゆる医学的症状のなかで、もっとも代表的なものといえるだろう。

現在数多くの鎮痛薬が出回っているが、その範囲は炎症を起こした周辺組織に作用するアスピリンやさまざまなアスピリン様抗炎症薬から、中枢神経系に直接作用するモルヒネやコデインなどのアヘン剤まで、広範に及ぶ。いずれも薬効は完全なものとはいえない。アスピリン様薬剤を使うと胃に不快感や潰瘍を起こす危険があり、そこからさらに危険な内出血につながるケースもある。

毎年何千名という人がこうした副作用で死亡している。モルヒネなどのアヘン剤はしばしば深刻な便秘を起こし、用量が多くなると呼吸を圧迫し、死にいたらしめる場合もある。アヘン剤を繰り返し使用するとときに耐性を進行させ、その結果薬に対する感受性が次第に弱まり、飲むたびに前回より多くの用量を必要とするようになる。

以前はアヘン剤の医療上の利用が中毒症状や依存につながりうるとの考え方から、医師がアヘン剤を使うことは禁止されていたが、最近では医療用途で使う場合、中毒や依存が起こることはまれであるとの認識がますます広がりつつある。大麻の場合と同じように、アヘン剤の向精神効果はほとんどの患者にとって快いものではなく、不快なものとしてとらえられる。今日ではモルヒネを自己投与し、慢性の痛みに対処できるような医療用具が多くの患者に提供されている。患者はこの装置を使って昏迷状態や陶酔状態に陥ることなく、最大の鎮痛効果を得られるように用量を滴定することができるようになっている。

臨床的な痛みのうちもっとも深刻な形態のひとつは、神経や脊髄、脳に対する損傷から起こる痛みである。これはさまざまな理由に起因し、事故や外科手術による神経損傷の結果だったり、末梢神経の損傷につながることが多い糖尿病やエイズ患者のケースや、腫瘍が神経細胞を圧迫、または損傷する何種類かのがんのケースも見られる。とりわけ深刻な症候群として、いわゆる幻肢痛がある。

こらは足の切断手術を受けた患者の3分の1までに起こる症状である。患者は脚部に以前分布していた神経細胞の損傷から起こる痛みを感じつづけ、これが切断されてしまっていまはない脚部に発しているもののように感じられる。このようないわゆる神経障害性の痛み症候群は長期にわたってつづき、また激甚であることが多い。治療もかなりむずかしく、もっとも強力な鎮痛薬とされるアヘン剤でも通例、効力を示さない。

一部の患者はカーバマセピン、フェニトイン、ガバペンチンといった抗癲癇薬による治療に反応を示すほか、アミトリプチリンのような抑鬱治療によく使われる薬に対しても反応を示す。だが多くの患者にとっては、神経障害性の痛みはいまだに治療不能である。もうひとつの代表的な痛みは偏頭痛である。

これは脳内に分布する膜組織にある血管の部分的炎症から起こり、身体に障害をもたらす重い頭痛である。偏頭痛発作を繰り返し経験するのは男性では10%、女性では20%に及ぶ。
動物モデルを使った実験では心強い結果が示されている。手術により座骨神経(後ろ足に分布している)に損傷を受けたラットの神経障害性の痛みのモデルで、THCが鎮痛剤として効力を発したという報告である。

モルヒネやこれに類するアヘン剤については、以前にこの動物モデルを効力を示しえなかったことが報告されている。さまざまな痛みの症状を治療するにあたって大麻がもつ価値は、医療用途での大麻利用の歴史をまとめた文献でも長らく重視されてきたところである。19世紀には、大麻は偏頭痛の治療に最適の薬とされていた(論評はrusso,1998)こうした背景から、臨床的な痛みの治療こそが、大麻製剤のもっとも重要な用途のひとつではないかという期待が生まれてくる。

だが現在までに臨床試験によって得られた結果は、そうした期待をかなり裏切るかたちとなっている。これらの試験については、英国医師会報告や米国国立衛生研究所(NIH)および米国医師蟹の報告で論評されている。合わせて46名のがん患者を対象にドロナビノールを5㎎~20㎎までの範囲で単回投与した二重盲検プラシーボ比較試験では、薬を投与してから3~6時間後に著しい鎮痛効果が表れたものの、それはもっとも高い用量(15㎎と20㎎)だけに見られる現象だった。

20㎎のドロナビノールはコデインの120㎎に相当するが、ほとんどの患者で不快な、憂慮すべき精神効果をもたらしている(たとえば離人症、制御不能)。別の二重盲検プラシーボ比較試験では、合成カンナビノイドであるレヴォナントラドールが筋肉注射により56名のがん患者に投与されたが、もっとも高い用量(2.5㎎と3㎎)を投与した後に著しい鎮痛効果が最大6時間まで続いた。

眠気が感受兄共通して見られる副作用だったが、そのほかの精神活性効果はわずかに報告されたにすぎない。このほかの唯一の肯定的結果は、単一の患者を対象に二重盲検プラシーボ比較試験のかたちで行われた臨床試験によってもたらされている。脊髄損傷による痛みに苦しむある患者の場合、ドロナビノール(5㎎)は痛みの緩和にさいして50㎎のコデインに相当するものの、痙縮(筋痙攣)の抑制ではコデイン以上の効力を示すことがわかった。

胃腸に由来する慢性の激しい痛み(家族性の地中海熱)に悩むバツの患者は、プラシーボと大麻油(大麻抽出液をオリーブ油で溶かしたもの)を投与され比較された。大麻を使って治療し、続いてプラシーボが投与される過程で、この患者のモルヒネに対する需要は著しく低減している。こうした肯定的結果とは逆に、親不知の抜歯手術を受けた10名の健常者にドロナビノールを静脈注射した試験では、あいまいな結果しか得られず、著しい鎮痛効果を示す徴候はほとんど見られなかった。

だがこれはたんに、このタイプの炎症にもとづく急性の痛みはカンナビノイド療法にもっとも反応しやすい症状ではない__という事実を示しているにすぎない可能性がある。残念なことに、神経障害性の痛みの治療にさいしてのカンナビノイド製剤の有用性を試す臨床試験は、いまのところ行われていない。幻肢痛の患者の一部は大麻を服用したあとの薬効を報告しており、大麻製剤が既存の薬による治療がとくにむずかしい痛みをもつこうしたグループの患者を救うことになる可能性がある。

ひところは偏頭痛治療で大麻が人気を博していたが、この症例を扱った比較試験は一例も報告されていない。もっとも以下のように、個々の実例報告は行われている。

偏頭痛に悩むキャロル・ミラーは、自らの経験を次のように語っている

  

「私は大学に行って偏頭痛と診断され、薬をもらうようになりました。大学の診療室で[アスピリンの糖衣錠を]処方してもらいましたが、それは頭痛にはいくらか効くものの、視覚障害や悪心にはまったく効きませんでした。そして激しい胸やけを引き起しました。

あるとき、痛みがあまりにもひどいので、[合成オピオイド]の注射をしてもらいました。痛みはもののみごとに収まりましたが、頭がひどくふらつくようになりました。(中略)それから何年かして偏頭痛がぶり返したとき、夫がマリファナが頭痛に効くということをどこかで読んだと言うのです。

私は驚きました。2回ほどふかして少し休むと、悪心と頭痛が完全に消え去りました。視界がちらつき出すと偏頭痛が間もなく起こることがわかるのですが、大麻を少し飲み、束の間の休憩をとると偏頭痛はまったく影を潜めてしまいます。たいていの場合、30分もすると仕事に戻れるようになります。しまいには偏頭痛も自分の支配下におくような、そんな途方もないパワーを得た気分になりました。

偏頭痛を抑えるために大麻を使いはじめてから18年たちますが、大麻を持たずに外へ出かけたことは数えるほどしかありません。一度タイレノールを試してみましたが、痛みには少し効くものの、悪心や視覚障害にはまったく効果がないことがわかりました」(Grinspoon & Bakalar,1993)

痛みの治療にナビロンを使った比較試験の報告はないが、英国・ヤーマスにある鎮痛センターを運営するW.ナトカット博士は、これまで60名前後にのぼる自分の患者にナビロンを投与している(英上院・化学技術委員会報告.1998)。患者はさまざまな理由による治療不能の慢性の痛みをかかえていた。その理由のなかには、多発性硬化症、末梢神経損傷、がん、背痛などが含まれる。1日あたり最大3㎎まで投与されたナビロンは18名の患者で鎮痛効果を示したが、15名の結果はあいまいか、または患者自身が薬に耐えられず、27名に何ら薬効が認められなかった。

30%の成功率はあまり印象的なものととはいえないかもしれないが、これらの患者は同センターでもっとも深刻な問題を抱えており、既存の鎮痛薬にもプラシーボにもまったく反応を示さなかったことが報告されている。副作用は眠気や不快な精神効果だったが、これらの症状は一定の鎮痛効果が表れたにもかかわらず何名かの患者がそれ以上の服用を断念するほど深刻なものであった。

プラス要素としては鎮痛効果のほか、一部の患者はナビロンが睡眠を促進し、筋肉や暴行の痙攣を抑え、便秘を解消し、気分をリラックスさせ、不安や抑鬱状態を軽減したことを報告している。ナビロンを痛みの治療に使ったプラシーボ比較試験はいまのところ行われていない。

痛みの治療にあたってのカンナビノイドの有用性は限られているようである。経口投与の場合、吸収の度合いがまちまちだったり、吸収されるまでに時間がかかるという通常の問題に加えて、鎮痛効果をもたらす最低量と陶酔量が近く、その間にあると考えられる有効服用量の範囲がきわめて狭いことが、事態をさらに深刻にしている。

だが留意すべきは、モルヒネなどのアヘン剤もまた著しい陶酔効果をともなうものの、有効服用量の範囲の狭さにもかかわらず臨床的な痛みの治療にさいして重大な役割をはたしているという事実である。臨床的な痛みの軽減にあたって示された吸引マリファナの有用性は、いずれも患者による事例報告にもとづくものだが、この投与ルートが経口ルートに比べて多くの利点をもっていることは容易に推測がつく。

吸引はTHCを循環系に素早く送り込む点で、静脈注射に匹敵した効果を示す。このため血漿中THC濃度のより正確な滴定が可能になり、一部の患者は不快な精神面への副作用を避けながら、望ましい鎮痛効果を得ることができるようになる。吸引マリファナは自己調節鎮痛法でのモルヒネのポンプ注入に類似するものと考えることができる。自己調整鎮痛法は患者がモルヒネを自己投与し、望ましい効果を得るものである。

大麻のほかの多くの潜在的適応症の場合と同じように、吸引大麻に関する比較試験はこれまで行われていない。ただし個人による事例報告は多数行われている。

リン・ヘースティングスは慢性関節リウマチからく痛みと痙攣を抑えるため、マリファナを使 っていた。以下は、1989年ヘースティングスが大麻を栽培したかどで訴えられたさい、裁判所に提出した宣誓供述書からの引用である。

「私のかかえた病気を治す方法はありません。私が正しいと感じ、安全だと感じたことを実行するしかありません。私は孫たちの姿が見られるくらい長生きしたいし、できるだけ充実した生活を送りたいのです。

マリファナはとってもよく効いてくれます。マリファナ煙草を吸うとたちまち痛みが収まります。筋痙攣に神経を集中させ、一番ひどい痛みのある部分の緊張を緩めることができるようになります。その効果はまるで波のように押し寄せてきます。鎮痛効果は速く、精神面に影響が見られるのはほんの2時間ほどです。翌日は二日酔い症状になることもなく、明瞭に考えることができます。

若年性の慢性関節リウマチからくる疲労も30分以内に収まります。家事をしたり家族に夕食を作ったりもできるようになります。人と話をすることもでき、友人や家族との会話、電話での会話もごくふつうにこなすことができます。マリファナがもたらしたもうひとつのメリットは、抑鬱症状を軽減してくれたことです。
  
(中略)私はこれまで痛みや筋痙攣を抑える目的以外でマリファナを吸いたいと思ったことはありません。必要な鎮痛効果を得るためにマリファナを前回より増量しなくてはならなかったこともありません」(Randall,1991)

 

大麻と多発性硬化症

多発性硬化症(MS)は、若年成人の間でもっとも一般的な身体に障害をもたらす神経系の疾患で英国で8万5000人、米国では25万人以上がこの病気をかかえて生活していると言われている。進行性の変性疾患で、通常神経線維の表面を覆っている脂肪組織の層を絶縁する防護物質ミエリンが徐々に破壊されることによって、脳や脊髄の神経が損傷を受ける病気である。原因ははっきりしていないが、自己免疫作用の結果と考えられている。

体内の免疫系をミエリンの一部に対して過度に反応するようになり、これが免疫系によりミエリンの攻撃、進行性の損傷につながるのである。通常段階的に進行し、間に寛解(沈静期)をともなうが、最終的には生命を脅かすことになる。症状は神経や中枢神経系領域の損傷部位によってさまざまに変化するが、よく見られる症状は筋痙攣や痛み、膀胱や腸の機能不全である。英国多発性硬化症協会は3万5000名の会員を対象に調査を行い、その結果を上院・科学技術委員会大麻報告(1998)で報告している。それによると疲労がもっとも頻
繁に見られる症状で95%の患者によって報告され、ついで平衡感覚失調(84%)、筋衰弱(81%)、失禁(76%)、筋痙攣(66%)、痛み(61%)、震え(35%)の順となっている。

多発性硬化症の症状の治療に使える薬は何種類かあるが、いずれもその薬効は完全とはいえない。バクロフェンやジアゼパム(ヴァリウム)は脳や脊髄にある抑制性化学的メッセンジャーGABA(ガンマアミノ酪酸)のための受容体を活性化し、筋肉への興奮性信号の過度の流れを抑えることで筋痙攣を和らげる効果がある。どちらも鎮静作用、眠気、意識混濁といった副作用を起こすことがある。

ダントロレンは筋肉に直接作用し、収縮力を低減させるが、深刻な副作用(頭痛、眠気、眩暈、倦怠感、悪心)を起こす場合がある。オキシブチニンやフラヴォキセイト、プロパンテリンは尿失禁の抑制に効果がある。これらの薬は膀胱を空にする働きをもつ化学的信号物質アセルチルコリンの活動を遮断する。いずれも口の渇き、視力障害、便秘、排尿障害をおこすことがある。

多発性硬化症患者の慢性の痛みは治療が困難な場合が多いが、癲癇治療に使われる薬(カーバマゼピン、フェニトイン)や抑鬱症状の治療用に使われる薬(アミトリプチリン)、さらにアヘン剤がときおり使用される。患者数が比較的多数にのぼるにもかかわらず、製薬研究調査会社がこれまで多発性硬化症に大きな関心を寄せることはなかった。1977年末に米国で発売された筋肉弛緩剤チザニジンは20年来、筋痙攣治療用として許可を受けた最初の新薬となった。

多発性硬化症は今後、大麻製剤が使われる標的として有望である(Clifford,1983 ; Consroe & Snider,1986 ; Randall,1991)。大麻を使った非合法の自己治療は、吸引・経口ルートともにすでに一般的になっている。英国多発性硬化症協会では、全体の4%にのぼる会員が目下、大麻を使って自らの症状を治療していると見ている。個々の事例報告では、大麻が筋痙攣や痛みを抑えるだけでなく、一部の患者で膀胱の制御力を向上させうることが示されている。

また大麻がもつ鎮静性は、痛みをともなう筋痙攣や頻繁な排尿の必要のためにたびたび眠りを妨げられる患者に熟睡をもたらす効果がある。大麻が痛みをともなうさまざまな形態の筋痙攣の治療に役立ったという言い伝えも多い。言い伝えにはいずれも、しっかりした科学的根拠がある。カンナビノイドCB-1受容体は、筋機能の制御にかかわる脳内領域__大脳基底核と小脳__にとくに高い密度で分布している。

受容体は大脳基底核の各中継基地にある出力神経単位(網状部黒質と淡蒼球)に多く見られ、そこで運動の制御に影響を与える仕組みになっている。カンナビノイド受容体が活性化すると運動を抑制することが知られており、これがカタレプシー(強硬症)をつながる場合がある。カタレプシーを起こすと意識はあるものの、人や動物はしばらくの間、不動状態になることがある。このためカンナビノイド製剤が鎮痙性をもつとしても驚くにはあたらない。多発性硬化症(アレルギー性脳脊髄炎)を発症したマウス・モデルでは、免疫系が自身のもつミエリンに対して敏感に反応するようになり、筋肉の震えをともなう進行性の神経系損傷が起こる。

THCを投与することで、マウス・モデルが示したこれらの症状をおさえることができる。THCを繰り返し投与した場合にも、くだんの症候群の進行速度を下げる結果となる。この事実は、カンナビノイドが自己免疫疾患の針路を変える能力をもち、これがカンナビノイドがもつ免疫系の活動を鈍らせる能力にもとづくものである可能性を示している。多発性硬化症患者は明らかによりよい治療を必要としており、大麻製剤を使う論理的根拠はしっかりしているように思える。

それだけにこのテーマでの大麻やカンナビノイド製剤を使った適切な照査をともなった臨床試験が、数えるほどしか行われていないのが残念である。これまでに公表された臨床試験はわずか6件で、世界各国で合計41名の被検者が対象となっているにすぎないが、結果はいずれも多義的に解釈できるものばかりである(論評は英国医師会報告.1997)。そのなかのひとつ、二重盲検プラシーボ比較試験では、9名の患者に5㎎と10㎎のドロナビノールが経口で単回投与された。

客観的に見てどちらの場合にも、ドロナビノールは痙縮抑制に著しい効果を発揮している。効果のピークは投与後3時間で、効果はその後も数時間持続した。だが薬剤による症状の改善を主観的に感じることが9名のうち3名で、彼らは「緩んだ感じになって歩きやすくなった」ことを報告している。

12名の多発性硬化症患者を対象にした悦の試験では、7.5㎎のドロナビノールが投与されたが、脱力や痙縮、筋肉活動の協調、足取り、反射運動に関する客観的評価には変化が見られなかったものの、ほとんどの患者が著しい主観的改善を報告している副作用は各患者に共通して見られ、このためほとんどの患者がドロナビノールによるそれ以上の治療を断念している。健常者と多発性硬化症患者それぞれ10名を対象にした吸引マリファナの試験では、何人かの患者が主観的改善を報告している。

しかし姿勢と平衡感覚について客観的測定を行ったところ、マリファナは健常者でも多発性硬化症患者でもこれらの機能に損傷をもたらし、とくに後者にもっとも著しい機能障害が見
られることがわかった。8名の多発性硬化症患者を対象にした一般臨床試験では、6時間ごとに5㎎ないし15㎎のドロナビノールを服用した5名の患者に震戦(震え)症状と幸福感の軽い主観的(客観的ではない)改善が見られ、2名の患者には主観的、および客観的に測定された改善が見られた。

そのうちの1名は震戦と手の協調で特筆すべき改善を示している。患者全員がハイ(精神的高揚)を報告し、うち2名がこれを不快なものと感じている。単一の患者を対象にした報告も行われている。それによるとひとりの多発性硬化症患者は1本のマリファナ煙草を吸ったあと、震戦と協調で劇的な改善を示した。別の試験ではひとりの多発性硬化症患者が二重盲検方式でナビロンとプラシーボを服用したが、ナビロン(1日あたり1㎎)は筋痙攣や夜間の尿機能の制御、幸福感に明らかな改善をもたらしている(Martynほか.1995)。

多発性硬化症に対する大麻の有効性を裏書きするこれ以外の証拠は、いずれも個々の事例にもとづくものである。これらの証拠を系統的な資料にまとめようと考えたP.コンスローら(1996)は、英国と米国で吸引マリファナを使って自己治療を行っている多発性硬化症患者についての調査を行った。結果報告では、郵便による匿名アンケートに対して112名の多発性硬化症患者から寄せられた回答がまとめられている。

被験者の平均年齢は44歳で、多発性硬化症を発症してからの平均年数は14年であった。平均して6年間(週5~6日、1日につき3回)マリファナを吸引している。アンケートに答えた患者の大多数がマリファナ吸引によって効果が得られたことを報告しているが、こうした調査結果はごく慎重に取り扱う必要がある。業者自らが注意を促しているように、以前の研究ではまったく効力のないプラシーボの投与に対して、65~70%以上の多発性硬化症患者が症状の改善を報告している。

医学にはまだまだ未解決の問題があり、患者は新薬が効果を発揮してくれるよう望んでいるのである。しかし、この調査の結果は目覚ましいものだった。対象者の70%以上で改善が報告された症状だけを挙げてみても、そこには驚くべき数値が示されている。回答者の90%以上が入眠時の痙縮(96.5%)や筋肉の痛み(95%)、夜間の痙縮(93%)、夜間の足の痛み(92%)、抑鬱症状(90%)、震戦(90%)をマリファナが改善したことを報告している。

70~90%の患者によって改善が報告された症状は不安、日中の痙縮、うずき、痺れ、顔面痛、筋脱力、体重減少であった。またこれより少ない割合だが膀胱や腸の機能に対する一定の効果や、視力障害、平衡感覚、言語能力、記憶能力の改善が報告されている。

個人の患者から寄せられた報告には感動的なものが多い。クレア・ホッジス(仮名)は多発性硬化症患者で、6年にわたって大麻による自己治療を行っている。彼女は患者仲間を助け、大麻を医療利用できるようにキャンペーンを張ろうと、英国で大麻治療法同盟(ACT)と呼ばれる組織を旗揚げした。英上院・科学技術委員会での大麻に関する調査(1998)で、ホッジスは次のような証言を行っている。

私は40歳の既婚女性で2人の子供がおり、多発性硬化症を発症したのは25歳のときでした。
痙縮や悪心、感覚喪失といった症状から始まりました。年を追うごとに病状は悪化し、身体の硬直はひどくなり、食欲は減退し、膀胱に激しい不快感を覚えるようになりました。この不快感のために夜間、少なくとも12回はトイレに行くことになり、眠るどころではありません。

これがさらに視覚障害や平衡感覚の減退、疲労や感染に対する感受性亢進など、ほかの症状を悪化させる結果となりました。さまざまな症状に対して種々の薬剤が処方されましたが、ひとつとして持続的な安息をもたらすものはありませんでした。バクロフェンやヴァリウム、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)は私の場合、耐えがたい副作用をもたらします。テマゼバムは睡眠の助けにはなりましたが、不安が昂じ、常習性が強いこともわかりました。私はとくに膀胱の症状を抑える薬を探していました。

イミプラミンやデスモプレシン、オキシブチニンは効果がなく、持続性の尿路感染を避けるために、ニトロフラントインを毎日飲むようになりました。
9年間にわたって既存の薬で治療してきましたが、膀胱についてはさっぱり効果がないので、自己治療することに決めました。あるとき米国の雑誌で、「多発性硬化症患者には大麻が効く」と何人かの医師が報告している記事を目にしました。(中略)友人が大麻を手に入れてくれ、タバコといっしょに吸う吸い方を教えてくれました。

5分ほどすると効果が表われました。膀胱と背骨の緊張が解け、気分もよくなり、身体の硬直も軽くなりました。動きやすくなっていろいろな作業もたやすくこなせるようになりました。そしてその晩はほかの薬をいっさい飲まずに熟睡することができました。

大麻を吸うようになって数カ月すると、病院で処方された薬の量を減らすことができるようになり、膀胱がすぐ空になってしまう問題も解決したので、毎日飲んでいた抗生物質も飲む必要がなくなりました。大麻は多発性硬化症を「治して」くれたわけではありませんが、全体的な健康状態は目覚ましく改善されました。膀胱の機能障害や背中の不快感、悪心と言った特定の急性症状をおさえてくれるだけでなく、睡眠不足や食欲不振といった長期的な問題も改善してくれました。

私の多発性硬化症の症状はさまざまに変化します。あるときは(短い間ですが)まったく強健な身体に感じられるかと思えば、またあるときは重い身体障害を抱えた人間のように思えてきます。同様に、自分のかかえた状況について楽観視できるときがあるかと思えば、症状が昂じたさいには非常に内省的になり、否定的な考え方に傾いてしまいます。多くの薬効が肉体的なものであると同時に心理的なものであることは知っています。

多発性硬化症のために終始体調を崩していますので、ごく単純な作業でも大きな負担となり、疲労感があとに残ります。大麻が気持ちも盛り立て、前向きにし、落ち着きをもたらし、何でも正常にこなすことができるようにしてくれるので、私が「ハイ」になる必要はありません。抗鬱剤や鎮静剤を処方されている多発性硬化症患者の多くを見ていると、深刻な慢性疾患に対処するにはまずこうした精神案的効果こそが望まれるのではないか。そんなふうに思えることがよくあります。

大麻が私にもたらしてくれる心と身体の安息はその後何年も続いてきますが、そのなかで第一に挙げるべきは何といっても膀胱の制御が改善されたことでしょう。大麻が私のわずらっている症状の全部を治してくれたわけではありません。たとえば視覚障害には効果がありませんでした。

病人が投与された薬に対して「中毒」にならないのと同じように、私も大麻にたいして中毒症状にはなりません。もしも何らかの理由(費用とか、手に入らない状況になるとか)で
大麻が手に入らなくなっても、それを「渇望」したり、禁断症状になったりすることはないでしょう。起こることといえば多発性硬化症の症状がぶり返す。ただそれだけです。

委員会への証言の別の箇所で、彼女は以下のようにも言っている。

大麻を大量に服用すると、多発性硬化症の症状と同じように身体の動きがひどくぎこちなくなることや、のぼせたり酔ったりしてくることは知っています。これまでに2.3度それを経験し、いやなので多くは飲まないようにしています。大麻を吸う理由はそんなところにはないからです。私が大麻を吸いはじめたのは肉体的症状を少しでも改善してもらうためだったのです。

米国医学研究所の報告(1999)は、B.D氏による次のような言葉を引用している。B.D氏がルイジアナで開かれた同研究所の分科会のひとつで発言したものである。B.D氏は米国の恩情的使用協約のもと、法的にマリファナ吸引を認められた8人前後の患者のうちのひとりである。彼女は多発性硬化症にともなう悪心や筋痙縮、痛みを抑えるためにマリファナを使っている。

政府からマリファナを入手する制度があると聞いたとき、これこそまさに解決法だと思いました。それ以前はマリファナを吸ったことなどありませんでした。実際、知っている人にマリファナ吸引者がいたのですが、その人たちのことを好ましくないと思っていたくらいですから。いまでは私自身が好ましくない人になってしまいました。けれどもマリファナは効きます。背痛を取り除いてくれます。多発性硬化症になると痙攣を起こし、足がぴんと伸びてしまってそれを抑えることができなくなります。

ふつうなら一生ダンスを楽しんだかもしれないし、置きたいところに足を置くことだってできたのに、多発性硬化症はその自由を奪ってしまうのです。そこでプールに通いはじめましたが、水泳は大きな効果があります。マリファナ煙草を吸うと、足の蹴飛ばし症状がはるかに軽くなります。1991年以来、1日10本の割合でマリファナ煙草を吸っています。ほかの薬はいっさい飲みません。

マリファナがすっかり私のペルパー代わりになってくれたようです。以前はマリファナを吸う人たちのことをよく思いませんでした。でも自分の健康のこととなれば、話はまったく別です。

マリファナは多発性硬化症のほかに、痛みのある筋痙攣をともなう身体障害性の疾患に悩む患者によっても非合法で使用されている。脳性マヒ、斜頸、さまざまな失調症、脊髄損傷などの患者である。P.コンスローは多発性硬化症患者によるマリファナ利用について郵便による調査を行った研究者(既述)だが、脊髄損傷に悩む患者についても同様の調査を実施している。

1998年の国際カンナビノイド研究協会シンポジウムの場で、106名の患者から得られた調査結果が報告された。患者は平均して週6日、1日あたり4本のマリファナ煙草を吸い、平均10年以上それを続けている。90%以上の患者がマリファナが手足の筋痙攣症状の改善、尿制御や尿機能の改善に効果を発揮したことを報告している。

多発性硬化症患者を対象にした前回の調査同様、この調査結果もまた注意深く取り扱う必要があるが、きわめて印象的な結果が示されたということができる。すくなくともこの種の調査は、今後の大麻やカンナビノイドに関する比較臨床試験にあたって、調査結果に基づいて特定の症状に焦点を絞る助けになるものと思われる。

大麻と緑内障

緑内障は目のなかの流体圧力(眼圧、IOP)が異常に高くなる病気である。目の中の体液(房水)の流出が妨げられることが原因と考えられている。緑内障を発症するとやがて視神経が損なわれ、進行性の失明につながり、最終的には完全に視力を失う。患者によっては重い頭痛や嘔吐をともなう痛みのある急性発作を起こし、また患者によっては暈輪や盲点といった視力障害がもっとも顕著な症状となる。

緑内障は西洋では失明の主たる原因となり、35歳以上のアメリカ人で200万人、その他の地域でもほぼ同程度の患者がいると見られている。緑内障の治療にはさまざまな薬が使われるが、主に房水の生成率を下げる働きをするものと、主に房水の排出を増加させる働きをするものとがある。薬は通常、目薬か軟膏のかたちで直接目に投与されるが、これはごく少量投与するだけで十分なのと、経口で投与する場合におこりうるさまざまな副作用を避けることができる利点をもつ。

効力のある薬には房水の流出を促進するアセチルコリン様の薬剤ピロカーピンやカーバコル、房水生成を抑えるノルアドレナリン-β受容体遮断薬チモロールやα2-アドレナリン受容体作動薬、房水の排出量を増やすプロスタグランジン誘導体、また房水生成にかかわる酵素カルボニックアンヒドラーゼ(炭酸脱水酵素)の阻害剤がある。局所的に用いられるカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤は最近開発されたもので、従来の薬が経口投与され、さまざまな副作用を起こす傾向があったのに対し、この問題をクリアすることに成功している。

これらの薬剤のほとんどが効果を示し、副作用はほとんど見られず、作用持続時間も長いが、いずれも理想的な薬剤とはいいがたい。眼圧を下げたり病気の進行を遅らせるために使用することはできても、理想とされる1週間まる7日間、24時間、低い眼圧を維持することがむずかしいからである。またいずれも反復して使うと患者に耐性が生じる傾向があり、その効果は次第に小さくなっていく。

こうした事情から、大麻に眼圧を下げる能力があるかどうか__という点に多大な関心が寄せられた。この事実は1970年代初め、ロサンゼルスにあるカリファオルニア大学のロバード・ヘプラー博士とその仲間たちによってほとんど偶然に発見されることになった。博士らは警察当局が薬物の不法使用者を摘発する一助とするために、大麻の目に及ぼす影響を研究していたが、その過程で吸引マリファナが眼圧を25%前後も低減させる事実を突き止めたのである。

この発見はその後、吸引と経口投与の2種類のマリファナを使った複数の試験結果によっても確かめられる。静脈注射された合成カンナビノイドも眼圧を下げることがわかったが、CB-1受容体に高い親和性を示す精神活性をもつ化合物(Δ9-THC、Δ8-THC、11ヒドロキシ-THC)だけが活性を示し、カンナビジオールとカンナビノールはごくわずかな活性しか示さなかった。人間を対象としたこうした試験結果に対して、数多くの動物実験によって裏づけをとることにも成功している。(論評はAdler & Geller.1986)

これらの発見はマリファナが緑内障患者に薬効をもたらしたという数々の事例報告によっても裏づけられるかたちとなったが、残念ながら緑内障患者を対象にした比較臨床実験はほんのわずかしか行われていない。そのなかでもっともすぐれた二重盲検プラシーボ煙草比較試験はメリットら(1980)がクロスオーバー方式をとり、THC成分2%の煙草を使った18名の患者を対象に実施したものである。

この試験では眼圧の著しい低下が見られたが、同時に血圧低下や精神効果など、いくつかの好ましくない副作用が現れている。また大麻やカンナビノイドは目や周辺結膜組織の発赤など、いくつかの目自体への影響を及ぼすこともわかった。これらの症状は血管の膨張や、角膜の乾きにつながる涙の生成減少が原因だが、角膜の乾きは目に損傷をもたらすこともある。

米・ジョージア医科大学の眼科学教授キース・グリーンは英上院・科学技術委員会の大麻調査会(1998)で、正常な眼圧値と高い眼圧値をもつ300名以上の被検者を対象に行った試験の結果を公表している。それによると大麻は平均して25%の眼圧低減をもたらし、この効果は3~4時間持続した。だがクリーンはほかのほとんどの眼科医と同じように、大麻を使った緑内障治療は現実的ではないとの結論に達している。

患者は低い眼圧値を維持するため1日何回もマリファナを吸引しなければならず、こうした投薬体制は薬のもたらす精神活性効果や認識機能への影響を考えると現実的とはいえないというのである。緑内障患者によるマリファナの長期使用についての比較試験は報告されておらず、マリファナがこの病気の進行に影響を及ぼすかどうかは定かではない。米国医学研究所の報告(1999)は、次のような否定的結論に達している。

緑内障はもっとも引き合いに出されることが多いマリファナの適応症のひとつだが、データがそれを裏づけるかたちになっていない。高い眼圧値(IOP)はすでに知られている緑内障の危険因子で、たしかにカンナビノイドやマリファナを使えばこれを抑えることができる。だが作用持続時間が短すぎ、必要とされる用量も多すぎるうえ、数多くの副作用があって、緑内障の治療に生涯カンナビノイドやマリファナを使うことは推奨できない。慢性的なマリファナ吸引がもたらす潜在的な弊害の程度が、緑内障治療にさいしてのそこそこの薬効より上回っているといえる。

それでもなお大麻が眼圧にもたらす効果は興味深く、今後さらに研究を進めていく価値がある。緑内障患者に大麻を投与した何例かの臨床試験の結果、大麻の眼圧低減能力は既存の一部の治療法の効果に対して相加的であることがわかり、この事実は大麻がまったく別のメカニズムにもとづいて作用する可能性を示している。つい最近まで、大麻が眼圧にもたらす効果はこの薬剤がもつ血圧低減効果によって説明できるのではないかと考えられていた。

血圧の低下が房水生成量の減少につながるという理屈である。しかし現在ではカンナビノイドCB-1受容体が目のなかに存在することが明らかになり、大麻が目の局所に直接効果を及ぼすことによって眼圧低減がもたらされるものと考えられている。THCを目薬によって目に直接投与する当初の試みからは、はっきりとした結果は得られておらず、THCに水溶性がほとんどないことがこの方法によるTHCの投与を困難にしている。

D.ペートら(1998)は、β-シクロデキストリンと呼ばれる新しい可溶化剤を使い、代謝的に安定しているアーナンダミド誘導体と合成カンナビノイドCP-55940をウサギの目に直接投与することによって有望な結果を導き出した。いずれも眼圧の低減をもたらし、この作用はCB-1受容体拮抗薬SR141716Aによって遮断することが可能だった。大麻製剤を目に直接投与することができれば、吸引や経口投与の場合に起こる種々の好ましくない副作用を避けることができるはずである。

緑内障治療にあたっての大麻の潜在能力を突き止めるためには、大麻が眼圧に対して作用するメカニズムについて、さらに多くの事実が解明される必要がある。現在までに開発された新しい、高い効力をもつ治療薬局所投与のβ-遮断薬やα2-アドレナリン受容体作動薬、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、プロスタグランジン誘導体に対して大麻が相加的な白湯を示すのかどうかも、まだわかっていない。米国国立衛生研究所(NIH)は「マリファナの医療利用に関する報告」(1997)のなかで、こう結論づけている。
  

マリファナがこれらの薬剤のひとつに相加的な作用を示さないとしたら、マリファナはもはや時代遅れの代物といえるだろう。これらの薬剤はいずれも全身に及ぶ副作用をもたらさず(アプラクロニジンやブロモニジンを使った患者の一部で見られる軽い口の乾きを除いて)、作用持続時間も12~24時間と長いからである。

緑内障は大麻製剤が使われる標的として特別ふさわしいとはいえないようだが、患者によっては吸引マリファナが劇的に症状を改善したという報告を行っている。そのなかでもっとも知られているのはアメリカ人ロバート・ランダルの事例であろう。ランダルはかなり視力が低下したあとで1970年代、吸引マリファナによって自己治療を開始した。そのときの様子を次のように記している。

既存のどんな薬を使っても、毎日夕方になると決まって目のなかに3色の暈輪があらわれた。これは眼圧が35mmHG(水銀ミリメーター)を超えた印なのである。ときどきその暈輪は鳴りをひそめるが、別の日には水晶のようにきらめく鮮明な光の輪が、あらゆる光源から発せられて眼前に立ちはだかる。そして日によっては__そんなに稀なことではない__目の前が一面、真っ白になる。

外界が強い光の輝きによってまったく見えなくなってしまうのだ。医学的な解釈ではこうだ__眼圧40mmHG以上。要するに、ことがそれほどうまく運んでいなかったのである。そんなときある人がマリファナ煙草を2、3本分けてくれた。なんと素晴らしい草だろう!その晩、私は夕食を作って食べ、テレビを見た。例の3色の暈輪が現われ、テレビを見ていてもおもしろくなくなったので音楽を聴くことにした。

目障りな灯りを少し暗くし、一心にマリファナ煙草をくゆらせた。ふと窓の外、遠くの街の灯りに目をやると、そこにあるはずのものがないことに気づいた。そう、暈輪だ。それまではたえず、あのけばけばしい色合いの、超次元的に大きく膨らんだ電球のような光が見えていたのに、瞬時に意識を超えたところで、それらの球体がことの次第を明かしてくれた。じつに単純明快なことだ。

古いメッセージがまったく新しい文脈で立ち現われた。マリファナを吸うだけで眼精疲労がはじけ飛ぶのである。(中略)退化する一方だった私の視野が安定するようになった。暗闇へと誘われる速度が落ちついには休止した。緑内障が治療できるようになったことで、生活のほかの局面も常態に戻りはじめ、福祉政策に頼ることなく、地元のカレッジで非常勤講師の仕事をするようになった。(Grinspoon & Bakalar.1993)

ランダルは緑内障治療のためにマリファナを使ってみる決心をした。自宅で栽培していた大麻を警察の手入れで失ったあと、彼は連邦政府に対して訴訟を起こし、1978年和解に達している。和解の内容は、連邦政府が食品医薬品局(FDA)で栽培したマリファナ煙草をランダムに月およそ300本の割合で無料提供するというものであった。ランダルは結局、食品医薬品局が許可する単独患者薬物試験の対象者に選ばれたが、これは彼を担当する医師に煩雑な事務処理と形式主義的な手続きを強いる結果となった。

だがこれが前例となり、この特別措置は最終的に全米の30名の患者に拡大され、ブッシュ政権が1980年代にこの制度を廃止するまで続けられた。現在でも米国政府はランダルを含め、8名前後の患者に無料でマリファナを提供している。

大麻と癲癇

癲癇は全人口の1%前後が罹患している発症率の高い神経系の疾患である。患者には脳の電気活動がうまく制御できなくなる状態が繰り返し訪れる。癲癇のさらに進んだ状態では発作を招き、患者は意識を失って筋痙攣を起こす。小発作癲癇の場合は発作の程度もこれより軽くなり、意識の喪失も一時的で、通例数分間で収束する。

癲癇を抑え、発作の危険を小さくする薬は何種類かあり、カーバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン、フェノバルビトン、プリミドン、エトスキシミド、クロナゼパムなどが知られているが、ここ数年間にヴィガバトリン、ラモトリジン、ガバペンチン、トピラメートといった新世代の抗癲癇薬が開発されている。これらの薬のうち副作用のないものはないが、通常患者ごとにもっともふさわしい薬を見つけて症状を効果的に抑えることが可能になっている。

しかし薬でうまく症状を抑えることができない癲癇患者はかなりの数にのぼり、その多くは深刻で永続的な身体障害をきたし、仕事につくことも車を運転することもできない。19世紀には癲癇を治療するために大麻が広く使われていたが、1930年代以降、上述のような抗癲癇薬が次々と開発されたことから、近年は大麻に対する関心がほとんど見られなくなっている。

一部の動物実験ではTHCの抗痙攣作用が示されているが、カンナビノイドが痙攣活動に対する感受性を高めてしまった事例も報告されている。興味深いのは、精神活性効果のないカンナビノイドであるカンナビジオールでも、一部の動物実験で抗痙攣薬としての活性を示したと見られる事例が報告されていることである。

カンナビジオールを使った臨床試験はほんの数例しか行われていないが、15名の治療不能な癲癇患者を対象にしたプラシーボ比較試験では、経口投与された200ないし300mgのカンナビジオールが薬効をもつ可能性が示されている。だがこうした潜在的に有用な発見を裏書きすべき追跡試験では、同量のカンナビジオールの投与によって発作頻度に対するプラス効果を確認することはできなかった。

ただし、これより高い用量のカンナビジオール(1日あたり900~1200mg)を単一の患者に投与したところ、薬効がもたらされた模様である(Hollister.1986;英国医師会報告.1997)。カンナビジオールはこれまで知られているどのカンナビノイド受容体に対しても測定可能なほどの活性を示さないため、抗痙攣薬として作用するとすれば、まだ発見されていない何らかのカンナビノイド受容体への作用にもとづくものと考えられる。

吸引マリファナを使った癲癇患者の事例報告は、内容的にまちまちである。患者によっては吸引マリファナによって著しい効果が得られ、既存の抗癲癇薬の用量を減らすことができたという報告を行っている。だが少なくとも1例の事例では、経口投与されたTHC(20mg)が癲癇の病歴をもつ患者の発作を促す結果となっている。また別の事例では、大麻が小発作癲癇の治療に使われる薬の効能を抑えてしまいうることが示されている。

マリファナの医療利用をもっとも熱心に推奨している人物でさえ、次のような警告をおこなっている。

大麻はけっして癲癇の万能薬ではない。(中略)カンナビノイドを試してみようと思う癲癇患者は、経口投与のTHCに注意すべきである。カンナビノイドを使う患者は、カンナビノイドによる治療が終わったあと、発作に対する感受性が前より高まってしまう危険があることを認識すべきである。(Rosenthal.1997)

大麻やカンナビノイドの潜在的有用性を研究する領域として、癲癇が高いプライオリティーをもっているとは考えにくい。過去数年間に何種類もの新しい抗癲癇薬が導入されたことから、この分野を専門とする臨床医たちはこれらの新薬をいかにしてうまく使っていくか、新薬が以前抗癲癇薬が効かなかった患者にどの程度まで効力を示すのかをさぐっている段階だと考えるべきである。

今後、既存の薬を使っても症状がうまく抑えられない患者が必ず出てくるものと思われる。大麻はそうした患者にメリットをもたらす可能性がある。精神活性効果のないカンナビジオールについてのさらなる研究が、いずれ正当に評価される日もくるだろう。

大麻と気管支喘息

肺の気道が慢性の炎症を起こす喘息は発症率の高い病気で、西洋ではとりわけ若年層に急速に広まっている。患者はぜいぜいと息を切らして呼吸困難になり、これが場合によっては身体の生涯につながり、極端なケースでは生命を脅かすことになる。幸い数々の効果的な治療薬が開発されており、そのほとんどが計量式のエアロゾル噴霧器によって標準用量を吸入し、肺に薬剤を直接投与するかたちをとる。

自然発生(内因性)の化学的メッサンジャーであるノルアドレナリンに類似した働きを示すβ-アドレナリン受容体作動薬は、直接作用して気管支を弛緩させ、速やかに呼吸を楽にする。これらの治療薬のうち、最初に使われるようになったのはイソプレナリンだが、心臓に有害な刺激作用をもたらすことがあり、これより安全で選択性が高いサルブタモールなどのβ-作動薬や、作用持続時間が長く、1日1.2度投与するだけですむサルメテロールなどがインプレナリンに代わって使われるようになっている。

β-作動薬は喘息にともなう急性症状に作用するものだが、ベクロメタゾンやフルチカゾンといった吸入式ステロイド剤は炎症部位自体に働きかけ、炎症部位の正常化を助けることから、喘息治療の分野に大きな影響を与えてきた。このほか喘息治療薬として最近導入されたのはモンテルカストで、経口投与され、肺に強力な抗炎症作用をもたらすことで知られている。

喘息治療における大麻の有用性は1970年代、健常者や喘息患者を対象にしてマリファナの呼吸機能に対する影響を調べるために行われた研究によってクローズアップされるようになった(Hollister.1986)。健常者の場合に気道抵抗の40%近い低減が観察されたことから、これを追跡するかたちで1970年代、喘息患者を対象に吸引マリファナや経口投与のTHCを使った数々の試験が行われた。

現在出回っている数々の抗喘息薬が開発される以前のことである。14名の喘息患者を対象にした急性症状の試験では、吸引マリファナが当時標準的だった吸入薬イソプレナリンに匹敵する気管支拡張効果をもつことがわかった。だが吸引マリファナはその煙に含まれる種々の成分が刺激効果をもつため、喘息患者が長期にわたって使用するには明らかに不向きである。

THCの経口投与は気管支拡張作用に必要とされる用量に明らかに精神活性効果がともなうため、実際的ではないことがわかっている。これらの研究のうちでもっとも興味深いのは、エアロゾルによってTHCを肺に直接投与する装置が開発されたことである。10名の喘息患者を対象にしたプラシーボ比較試験では、THCエアロゾルによって200μgのTHCが投与され、その効果がサルブタモール・エアロゾル(100μg)と比較されている。

いずれも呼吸機能に著しい改善が見られたが、THCの作用は初めのうち遅く、1時間後にサルブタモールとほぼ同程度のピークに達した(Williamsほか.1976)。だが吸入式THCを使った別の試験では、一部の患者がエアロゾルによる肺への刺激効果、胸の不快感、咳を訴えている。このためこの分野での以降の研究は中止された。ただしTHCエアロゾルによる刺激効果がTHCそのものによるものなのか、THCと溶解するために使われた溶剤によるものなのかは不明である。

THCやそのほかのカンナビノイドを肺に直接投与する新たな方法が見つからないかぎり、気管支喘息治療で今後、大麻製剤が使われる見通しはほとんどないものと見られる。現在では効力の強い抗喘息薬が何種類も開発されている。大麻はβ-作動薬同様、気管支収縮にともなう諸症状を改善するが、病気の根本に働きかえるという確証はない。

今後必要とされるのは病気の進行そのものに作用を示す薬剤であり、そうした薬剤こそが気管支喘息のより重い段階への進行を妨げる助けになるものと思われる。

大麻と抗鬱・睡眠

大麻は鬱病や不安症、睡眠障害の治療薬として推奨されてきた。西洋医学でも大麻の利用法として最初に推奨されたのが鬱病や内因性鬱病(重症型の鬱病)の治療で、現在の抗鬱剤が開発される以前、20世紀半ばまでは実際にこうした目的で大麻が使用されていた。だが、鬱病や不安症の治療にTHCやナビロンを使って行われた数少ない臨床試験は、互いに矛盾する結果示している。

一部の患者は症状の改善を報告しているが、患者によってはカンナビノイドの精神効果を不快で恐ろしいものととらえている。不安を抑えるのとは逆に、カンナビノイドの急性効果が一部の被検者、とくに以前大麻を飲んだ経験のない患者に不安や狼狽を引き起すケースが見られる。だが、一部の鬱病患者は、大麻から得られた著しい薬効について、次のように報告している。

1990年の春、私は1973年以来初めて大麻を吸いました。驚いたことに、4分の1ほど吸うと私の自己認識が変わり、他人が見る人格と一致するようになりました。まさに昼と夜ほどの違いです。以前にもほんの数回だけ、似たような変化を経験したことがあります。それはアミトリプチリンが作用して私の気持ちを深みから引き上げてくれたときです。

でもアミトリプチリンは効くまでに4日かかりましたし、どんどん飲む量を増やしていく必要がありました。マリファナの場合、効くまでに5分とかかりません。それ以来は私は明瞭に考えるため、気持ちを集中させるため、そしてたんに何年もの間、楽しむことができなかった方法で世界の美を楽しむために、マリファナを使うようになりました。(Grinspoon & Bakalar.1993)

臨床検査室で行われた睡眠に関する研究では、経口投与された10~30mgのTHCが深い低速波睡眠の量を増加させる効果が示されているが、同時に、ほかの睡眠薬を使った場合と同じように、夢をともない眼球の素早い動きが見られる睡眠(レム睡眠)の量が減少している。これより高い用量のTHCを繰り返し投与したケースでは、投与の翌朝に一定の二日酔い症状やレム睡眠の量の反動的増加が観察されている。

このようにTHCは既存の睡眠薬に比べて大きな利点をもっているようには見受けられず、逆に入眠前に陶酔症状を引き起す欠点がある。現在までに新しい抗鬱剤(たとえばプロザック)や抗不安薬(たとえばヴァリウム)、睡眠薬(たとえばテマゼバムやゾピクロン)が開発されていることから、この分野も当初一般的だった大麻による処方が現実性を失ってしまったケースと見ることができよう。

マリファナの医療利用・まとめ

大麻製剤の適応症として考えられる疾患は数種類に上がるが、現代的基準からすると、そのほとんどのケースで臨床的効果についての証拠がはなはだ不十分である。だが、がんの化学療法にともなう症状の治療にカンナビノイドが使われているという事実は、しかるべき資金が拠出され、厳密な計画のもとに臨床試験が行われるなら、そうした証拠の蓄積が可能であることを示している。

大麻の医療利用にあたって明らかに厄介な問題のひとつは、治療効果とハイ(精神的高揚)との間にある有効服用量の範囲が一般に狭いという事実である。いかし米国医学研究所の報告(1999)は、こらが患者にとってメリットになる場合があることを指摘している。大麻を飲んだ経験のない年配の患者は大麻の心理的効果を不快で不安をもたらすものととらえる向きがあるが、患者によっては大麻の抗不安効果がプラスに働くのである。

運動障害やがんの化学療法、エイズ消耗症候群などでは不安自体が症状を悪化させる傾向があるからである。
大麻を薬剤として人間が使う場合、もうひとつ要求されるのは安全性である。

出典:マリファナの科学

公開日:
最終更新日:2017/10/05