聖書の時代と大麻草:カナボソムとは?

あまたの文献およびメディアで、聖書における大麻草の存在が語られているが、これについてデイヴィッド・シュマダーもまた、自著『Weed』で言及しており、興味深い。

キリスト教史で大麻草を語る際、必ず引き合いに出されるのが、旧約聖書の中に登場する「聖油」の配合だ。
儀式に用いられるこの聖なる油のレシピは、出エジプト記の第30章で明らかにされている。

主はまたモーセに言われた
「あなたはまた最も良い香料を取りなさい。すなわち液体の没薬五百シケル、香ばしい肉桂をその半ば、すなわち二百五十シケル、におい菖蒲二百五十シケル、桂枝五百シケルを聖所のシケルで取り、またオリブの油一ヒンを取りなさい。あなたはこれを聖なる注ぎ油、すなわち香油を造るわざにしたがい、まぜ合わせて、におい油を造らなければならない。これは聖なる注ぎ油である」
(出エジプト記 第30章21~25節)

ここに登場する「におい菖蒲」が大麻草のことではないか?そう推測する言語学者や植物学者がおり、今でもその説を支持する意見が、本やネット上で散見されるが、果たして真実はどうなのか?

まず、この「におい菖蒲」と訳された原語であるが、「kaneh-bosem」というヘブライ語がそれである。
この「kaneh-bosem」(カナボソム)の発音が「カンナビス」の音に近似していることが、今日の憶測を呼んでいるのだと思われる。

また大麻合法化運動のカリスマ、ジャック・ヘラーも、「kaneh-bosem」が大麻草であったという説をとる一人だ。

「ソロモン寺院における聖なる金曜日の夜の礼拝の一部として、6万人から8万人が2万本に及ぶカナボソム(大麻草)の線香を儀式中に吸引し、それから週で一番盛大な晩餐に向かった。」 (ジャック・ヘラー 『大麻草と文明』)

しかしながら、シュマダーによると、現在ではこの「カナボソム=大麻説」は眉唾物であるらしい。多くの高名な学者たちがこの説を否定する立場にいると言う。有力な説はふたつ存在する。まさに聖書の日本語訳通り「カナボソム」は「ショウブ」であるという説、もしくは「レモングラス」という説。いずれにしても、真相はわかっていないのだが…。

参考文献:
Schmader,David (2016). Weed. Sasquatch Books, pp.7
日本聖書協会(1954). 口語訳聖書 出エジプト記 第30章
ジャック・ヘラー(2014). 大麻草と文明 J・エリック・イングリング(訳) 第10章 pp.125