詳しく解説!アントラージュ効果を生み出す大麻成分

カンナビジオール(CBD)とTHC

△9-テトラヒドロカンナビノール(THC)や内因性カンナビノイド(アナンダミド、2-アラキドノイルグリセロール)は、カンナビノイド受容体(CB1およびCB2)に作用して精神作用、免疫調整作用、抗炎症作用など、多彩な作用を示します。

一方、THCと並んでカンナビノイドの主要な成分であるカンナビジオール(CBD)は、カンナビノイド受容体(CB1およびCB2)には結合しませんが、カンナビノイド受容体と、THCや内因性カンナビノイドなどのリガンドとの結合を阻害するアンタゴニスト(阻害剤)としての活性を持っています。つまり、CBDはTHCや内因性カンナビノイドの働きを防ぐ作用があるということです。その結果、CBDはTHCの精神作用を減弱させて副作用を軽減する効果があります。

オピオイドやコカインや覚醒剤などと同様に、THCには脳内報酬系を活性化する作用があるため依存を引き起こす可能性があります。しかしながら、大麻の場合は、CBDがTHCによる脳内報酬系の活性化を抑制するという報告もあり、大麻の依存性はオピオイドやコカインや覚醒剤よりはるかに弱いと考えられています。

セロトニンと神経学的症状

セロトニンという名前で知られている5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)は、動植物に広く分布する生理活性アミンの一種です。脳内の神経伝達物質として精神機能や運動機能の調整に需要な役割を果たしており、体内のリズムを調節して質の良い睡眠をとるためにも欠かせない物質として有名です。

セロトニンはその受容体に結合することで、さまざまな神経機能を発揮します。セロトニンが結合する5-HT受容体には約15種類のサブタイプが存在することが知られています。5-HT受容体のうち、5-HT1A受容体は不安障害やうつ病の治療ターゲットとして知られていますが、それだけでなく、総合失調症やパーキンソン病の治療ターゲットとしても注目されています。この受容体にセロトニンが結合すると、アデニル酸シクラーゼという酵素の活性を阻害して神経活動を抑制します。

カンナビジオール(CBD)にもまた、この5-HT1Aを活性化させる働きがあります。そのため、カンナビジオール(CBD)を含む大麻による抗不安や抗うつ作用や、パーキンソン病など神経学的症状の治療に寄与することが期待されています。

大麻に含まれる他の成分との相互作用

大麻にはテルペン類も多く含まれており、テルペン類とカンナビノイドの相乗効果も指摘されています。テルペン類は大麻の味や匂いの原因になるだけでなく、THCやカンナビジオール(CBD)などの植物性カンナビノイドの働きにも影響します。

テルペンには多くの種類があり、あるものは脳のカンナビノイド受容体を阻害し、あるものは活性化するといった具合に、その作用はテルペンの種類によって異なります。特に、大麻に含まれるβカリオフィレン(β caryophyllene)というセスキテルペン類の成分が、CB2受容体に結合して活性化し、炎症を引き起こす原因となる炎症性サイトカインの産生を抑制することで、抗炎症作用や神経障害性疼痛の軽減作用を示すことが報告されています。

このことは、大麻の鎮痛作用や抗炎症作用はカンナビノイドだけの効果ではなく、βカリオフィレンのような、そのほかの成分との相互作用が重要であることを示しています。ナビキシモルスは△9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)をほぼ同量含む大麻抽出エキスを製剤化したもので、サティベックスという商品名で使用されています。大麻抽出物であるため、ナビキシモルスには精油成分およびテルペン類も含まれています。

ナビキシモルスの開発に関与したイーサン・ルッソ博士は、ナビキシモルスが薬効を示すためには、カンナビノイドとテルペン類の相互作用が重要だと述べています。個々のカンナビノイドを単独で使用するより、複数の成分を含む大麻の抽出物あるいは大麻そのものを使う方が効果が高く、副作用も軽減できると考えられているのです。