内因性カンナビノイドの作用を知る PART2

摂食行動をコントロールする内因性カンナビノイドシステム

食物の摂取(摂食)や、体内でのエネルギーの生産と消費の恒常性の維持は、大脳の視床下部や辺縁系などの中枢神経と、脂肪組織、骨格筋、肝臓、膵臓、小腸などの末梢の臓器によって調節されていますが、その調節には、内因性カンナビノイドシステムが重要な役割を果たしていることが知られています。

例えば、摂食のコントロールについてですが、血糖値を低下させる作用のあるインスリン、食欲抑制作用のあるレプチン、食欲を増進させる作用を持つグレリンをはじめとする、摂食に関連する副腎皮質ホルモンや生理活性ペプチドによって、内因性カンナビノイドシステムの活性は影響を受けます。

そして、内因性カンナビノイドシステムの活性が、オピオイド(ベータ・エンフォルフィンなど)やセロトニンやγアミノ酪酸(GABA)などの神経伝達物質や神経ペプチド(神経系に作用するホルモン)の放出を制御しており、これらの物質が中枢神経系に作用することで、食欲の調整を行っているのです。

内因性カンナビノイドシステムと肥満との関連

内因性カンナビノイドシステムは、摂食行動や、体内でのエネルギーの生産・消費に影響しているため、内因性カンナビノイドシステムをコントロールすることで、体重を増やしたり減らしたりすることができます。肥満していない人に比べて肥満した人では、脂肪組織や肝臓、膵臓、視床下部における内因性カンナビノイドシステムの活性が高くなっているという報告があります。

一般的に、内因性カンナビノイドシステムを活性化させることで、栄養摂取やエネルギー貯蔵を亢進させ、エネルギー消費を抑制させると考えられています。反対に、CB1受容体の遺伝子を欠損させて、内因性カンナビノイドシステムが働かないようにしたマウスは食事摂食が少なく、エネルギー消費が増え、体重が減少します。同様にCB1受容体のアンダゴニスト(阻害剤)を投与して、内因性カンナビノイドシステムの活性を抑制しても、食欲が低下し、体重が減少することが知られています。

また、CB1受容体を活性化する△9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の投与は、脂肪細胞における脂肪分解を抑制し、脂肪の蓄積を促進する作用があるため、進行したガンやエイズの患者の食欲不振や消耗状態の改善に利用されることがあります。大麻や合成THCの投与により食欲を高めて体重を増やすことによって、進行ガンやエイズの患者の消耗状態を改善することが臨床的に証明されています。

炎症性腸疾患と内因性カンナビノイドシステムの関連性

炎症性腸疾患は主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称ですが、これらの疾患の症状の軽減に、内因性カンナビノイドシステムが関与することが明らかになっています。

ここでは、炎症性腸疾患について詳しく説明しましょう。

炎症性腸疾患には、クローン病と潰瘍性大腸炎が含まれます。クローン病は口腔から肛門まで全消化管に非連続性の慢性肉芽腫性炎症(マクロファージなどの炎症細胞や線維芽細胞などが増殖して結節を作るような慢性炎症性病変)を生じるのが特徴です。若者で多く発症し、自覚症状としては、腹痛や下痢や食欲低下などの消化器症状の他、体重減少や倦怠感や炎症に伴う発熱、下血、腹部腫瘤、貧血などの症状を呈します。また、腸管の狭窄や肛門部の病変などの合併症も多くみられます。

潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に限局してびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患で、腹痛や下痢が特徴的な症状です。血便などを伴うこともあります。ともに原因不明で厚生労働省の特定疾患に指定されています。炎症を抑える薬を使うことによって、多くは炎症が寛解あるいは減少します。しかし、薬物治療で効果がみられず炎症が収まらない場合は、外科手術が必要になることもあります。また、ステロイドや免疫制御剤など強い薬の副作用で苦しむ患者さんも多くいます。このような様々な状況において、大麻の利用が症状の緩和に役立つことが報告され、注目されています。

内因性カンナビノイドシステムと炎症性腸疾患①内因性カンナビノイド

炎症性腸疾患の患者や動物実験モデルの研究において、消化管における内因性カンナビノイドシステムに関わる、カンナビノイド受容体や内因性カンナビノイドの合成酵素および分解酵素の量などに変化が起こっていることが報告されており、内因性カンナビノイドシステムが炎症性腸疾患の治療に関与していることが注目されています。

動物実験において、内因性カンナビノイドである、アンナダミドを分解する酵素(脂肪酸アミドハイドロラーゼ)が遺伝子に欠損しているマウスでは、腸の炎症が軽減することが報告されています。また、同様に、分解酵素の阻害剤の投与することによっても腸の炎症が軽減することが明らかにされています。

つまり、これらのマウスでは、アナンダミドが分解を受けないために、カンナビノイド受容体の活性化が継続し、その結果、腸の炎症が抑制されるというメカニズムです。別の内因性カンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロールを分解する酵素(モノアシルグリセロールリパーゼ)の阻害剤を使った実験でも、同様に炎症を軽減する効果が報告されています。つまり、CB1受容体とCB2受容体のリガンドである内因性カンナビノイドは腸管粘膜の炎症を抑制する働きがあるのです。

内因性カンナビノイドシステムと炎症性腸疾患②カンナビノイド受容体

カンナビノイド受容体(CB1とCB2)の活性化が、消化管の炎症を抑制し、炎症性腸疾患の症状を軽減することも明らかにされています。ジニトロベンゼンスルフィン酸を注入して、マウスの腸管内に人工的に炎症を起こす実験を行うと、CB1受容体遺伝子を欠損するマウスでは、CB1遺伝子を正常に持つマウスと比べて、炎症の症状が極めて強くなることが報告されています。

すなわち、CB1遺伝子を欠損したマウスでは、腸管粘膜における出血性壊死や好中球浸潤で顕著で、炎症所見が粘膜筋層にまで及んでいました。同様に、CB1受容体の阻害剤(アンタゴニスト)を用いてCB1の働きを阻害することによっても、腸管の炎症症状が強まるという実験結果が報告されています。

反対に、正常なマウスの腸管にジニトロベンゼンスルフィン酸を注入して炎症症状を引き起こす前に、CB1とCB2受容体のアゴニストを投与してCB1とCB2受容体を活性化することで、腸管の炎症反応が軽減するという実験報告も得られています。

慢性腸炎のモデルマウスにおいても、同様の結果が得られています。慢性腸炎のモデルマウスに、CB2受容体に選択的作用する、合成アゴニストのJWH-133を投与することで、腸管壁の炎症を軽減し、慢性炎症に起因する体重減少を抑制することが報告されています。

出典:難病情報センター