内因性カンナビノイドについて PART1

内因性カンナビノイドとは

大麻草のカンナビノイドが作用する受容体がいくつか見つかっています。
その代表となるのがCB1受容体とCB2受容体です。
1964年にイスラエルのラファエル・メコーラム博士らによって、大麻の精神変容作用の原因成分としてテトラヒドロカンナビノール(THC)が分離され、1988年にTHCが直接作用する受容体が発見されカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)と命名されました。

CB1は主に中枢神経系のシナプス(神経細胞間の接合部)や感覚神経の末端部分に存在します。
さらに筋肉組織や肝臓や脂肪組織など非神経系の組織にも分布しています。
数年後にタイプ2の受容体(CB2)の遺伝子が発見されました。
CB2は主に免疫系の細胞に発現しています。
CB1とCB2の存在はこれらの受容体に作用する胎内成分が存在することを意味しています。

カンナビノイド受容体と反応する体内物質を内因性カンナビノイドと言います。
1992年に内因性カンナビノイドのアナンダミドが発見されました。
アナンダミドはサンスクリット語の【アーナンダ(至福)】にちなんだ名前です。
メコーラム博士は内因性カンナビノイドが人間の快感や幸福感を引き起こす物質だと考えたと思われます。

アナンダミドとは

アナンダミドはアラキドノイルエタノールアミドというのが正式名称で、脂肪酸の一種のアラキドン酸とエタノールアミンが結合したものです。
さらに、2番目の内因性カンナビノイドとして2-アラキドノイルグリセロールが発見されました。
さらにいくつかの内因性カンナビノイドが見つかっていますが、すべて脂肪酸の代謝産物です。
アナンダミドは脂肪酸アミドハイドロラーゼによって分解され、 2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロールリパーゼなどによって分解されます。
このような分解酵素の活性によっても内因性カンナビノイド・システムは影響を受けています。

カンナビノイド受容体はGタンパク質を介して外部の情報を細胞内に伝える

細胞膜受容体には多くの種類が知られていますが、そのうち最も大きなグループを構成しているのがGタンパク質共役型受容体(GPCR)です。
細胞膜(脂質二重層)の内外を行ったり来たり、7回繰り返しているので【7回膜貫通型受容体】という名称で呼ばれることもあります。
GPCRが活性化されると、細胞内のGタンパク質を介してシグナルを細胞内に伝達するために【Gタンパク質共役型受容体】という名前がつけられています。

Gタンパク質はグアニンヌクレオチド結合タンパク質の略称です。
Gタンパク質はα、β、γの3つのサブユニットから構成される複合体を形成しています。Gタンパク質は通常、GDPが結合した状態で存在していますが、この状態のGタンパク質は不活性型であり、作用を現しません。
GPCRにリガンドが結合して活性化されると、GDP(グアノシンニリン酸)が遊離して GTP(グアノシン三リン酸)が結合して活性型となって細胞内にシグナル伝達を引き起こします。

Gタンパク質の活性化は数百種類にも及ぶセカンド・メッセンジャー(受容体からのシグナルで最初に産生される情報伝達物質)の産生を抑制します。
例えば、アデニル酸シクラーゼに作用してATPからセカンド・メッセンジャーのサイクリックAMP(cAMP)への合成を制御します。
また、ホスフォリパーゼCに作用して細胞膜脂質のホスファチジル・イノシトールからセカンド・メッセンジャーとして働くジアシルグリセロールやインシトール三リン酸の産生を制御します。
これらの作用は活性化されるGPCRの種類によって活性化される場合と阻害される場合があり、刺激されるGPCRの種類によって多様な作用を示します。
GPCRは多くの種類の細胞に分布しており、光・匂い・味などの外来刺激や、神経伝達物質・ホルモン・イオンなどの内因性の刺激を感知して、細胞内に伝達する役割を担っています。

例えば、光を感じて視覚に関わるロドプシン、匂い物質に作用する嗅覚受容体、様々な生理現象を司る神経伝達物質(アドレナリン、ヒスタミン、セロトニンなど)の受容体などは全てGPCRの仲間です。
GPCRは酵母や原虫など単細胞の真核細胞でも外界からの情報伝達に重要な働きを担っています。
多細胞生物では進化の過程でさらに多くの種類のGPCRを持つようになっています。
人間ではGPCR遺伝子は1000種類以上が見つかっており、個人のGPCRは特定のシグナルに特異的に反応して生理機能を引き起こします。
大麻草の成分のカンナビノイドが結合するカンナビノイド受容体もGタンパク質共役型受容体の一種です。

また、GPCRにはアドレナリン受容体やヒスタミン受容体以外にも、ドーパミン受容体、嗅覚受容体、アデノシン受容体、セロトニン受容体、オピオイド受容体、カンナビノイド受容体など多数あります。
これらの受容体は体の機能の調整に重要な働きを行っているので、これらの受容体をターゲットにした物質は医療品となります。
実際、GPCRは多数の種類があって多様な生理機能に関与しているので、既存の医療品の半数くらいが、何らかの形でGPCRの機能に影響を及ぼすことによって薬理作用を示すと考えられています。
つまりGPCRは医療品開発のターゲット分子として極めて重要であると考えられています。

つまり、GPCRの一種であるカンナビノイド需要他に作用する大麻草成分が体の生理機能に影響するのですから、医療品としての薬効があって当然といえます。
世界保健機関(WHO)は1997年の報告書の中で内因性カンナビノイドシステムに作用する物質が多くの病気の治療薬となりうる可能性を指摘しています。
麻草に特異的に含まれている成分が作用する受容体やシグナル伝達系が生体内に存在することは、【大麻に医療用途が無い】という意見を否定できる最大の根拠になります。

内因性カンナビノイド・システムの異常が様々な疾患を引き起こす原因

カンナビノイド受容体タイプ1(CB1)は中枢神経系において様々な神経伝達調整を行っており、記憶・認知・運動制御・食欲調整・報酬系の制御・鎮痛・脂肪代謝など多岐にわたる生理作用を担っています。
カンナビノイド受容体タイプ2(CB2)は免疫細胞や白血球に多く発現し、免疫機能や炎症の抑制に関与しています。
CB1は中枢神経系に多く発現し、CB2は免疫細胞に多く発現していますが、カンナビノイド受容体(CB1とCB2)は多くの組織の細胞に存在し、多彩な生理機能の調整に関与しています。

内因性カンナビノイド・システムが関与している疾患として、多発性硬化症、脊髄損傷、神経性疼痛、がん、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、高血圧、緑内症、肥満、メタボリック症候群、骨粗しょう症、うつ病など多数の病気が報告されています。
つまり、これらの疾患と治療に内因性カンナビノイド・システムの制御(活性化や阻害など)が有効である可能性が示唆されています。
現在、カンナビノイド受容体に作用する物質として、生体内で合成される内因性カンナビノイド(アナンダミド、2-アラキドノイルグリセロールなど)、大麻草に含まれる植物性カンナビノイド(テトラヒドロカンナビノールやカンナビジオール)、医療品の開発目的で合成されている合成カンナビノイドなどがあります。