合法の国はどこ?世界の医療大麻をめぐる現状

世界の医療大麻の現状

大麻草に含まれるカンナビノイドで、大麻草の主成分であるTHC(テロラヒドロカンナビノール)がいわゆる酩酊状態(ハイ)になる精神活性作用があるということで、1961年の麻薬に関する単一条約によって国際的な規制植物となっている。しかし、歴史的に見ると、国際的な規制を受けるようになった1925年以前には、大麻チンキとして欧米や日本でも医療品として販売していた実績があるこという真実がある。

国際条約が発効されてからの動きになるが、1970年代からのマリファナ合法化運動と人道的使用の観点から医療用大麻の規制緩和を求める声が徐々に大きくなってきた。そして、1996年にアメリカのカルフォルニア州での住民投票による合法化をきっかけにして、20年間かけてアメリカの半数の州で合法となり、オランダやカナダなどの国レベルで使用できる州も増えている。

近年では、南米のウルグアイが嗜好用を含めた個人利用の完全合法化を2014年5月から世界で初めて実施している。医療用では、1990年代初頭にイスラエル、2008年にオーストリア、2014年にチリ、THCを含まないCBD製品のみの合法化を2015年にブラジルで実施している。ポルトガルは、マリファナだけでなく、すべての薬物の非犯罪化対策を2001年から実施しており、10年以上にわたる運用実績は、今日の世界の麻薬政策のあり方に一石を投じている。

一方で大麻に厳しい法律をもって規制している国は、日本、中国、キューバ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、サウジアラビア、シンガポール、アラブ首長国連邦である。世界的に見れば、国際条約の規制があるために、カンナビノイドの利用は発展途上国であるが、先進国の中では合法化が進展していると言える。

日本では、第二次世界大戦のGHQ(連合国軍最高司令官総事令部)領土時下の1948年に大麻取締法が制定されてから、大麻草の栽培は都道府県知事の許可制となった。カンナビノイドと多く含む花穂や葉の利用は、全面禁止され、医療目的の使用は医師も患者もできないという状況である。日本では大麻草の成分のTHCが0.3%未満という産業用大麻の品種があっても、都道府県の知事免許の交付を受けて栽培することすらほとんど不可能な現状がある。

イギリス製薬会社GWの挑戦

この難しい業界にチャレンジしたのが、植物性カンナビノイドから作った略品を世界で初めて市販したイギリスのGW製薬である。GW製薬は、ロンドンで医師をしていたジェフリー・ガイ博士とブライアン・ホイットル博士によって設立された、カンナビノイド医薬品に特化したベンチャー企業である。

設立と同時に1998年6月にイギリス政府から医薬品製造と大麻草の栽培の免許を取得した。ところが、医薬品の原料となる大麻の種子の入手が困難であったという。製薬会社としては、出所のわからないものを不法に入手することができなかったのである。それを救済したのが、世界の大麻品種・植物学で有名なデビット・ワトソンとロバート・クラークが設立したオルタファーマ社であった。

オルタファーマ社は、1994年にオランダに栽培免許申請して、1997年にようやく栽培免許を取得したものの、ちょうど事業開発費の調達に困っていたのである。両社の思惑が一致して、5年間にわたるカンナビノイド医薬品に適した栽培法と品種に関する共同研究がスタートした。

ベンチャーの製薬会社は、研究開発費が膨大となるため、2001年にロンドン証券取引所で株式公開して資金調達を始めた。2003年3月には、イギリス医薬品庁にナビキシモルス商品名サティベックスを認可申請したが、却下された。だが、同年5月にドイツのバイエル社と販売提携をして、2005年4月にカナダでサティベックスが医薬品認可となったのである。

サティベックスは第二次世界大戦後、GMPの基準を満たした世界初の植物性カンナビノイド由来の医薬品となった。神経性難病である多発性硬化症の痛みの改善薬として販売された。創業からわずか7年で市販まで辿りついたことは、医療品業界にとっても快挙である。その後、アメリカのホワイトハウスの麻薬撲滅対策室の元次官アンドレア・バーサウェルを雇用し、2007年に日本の大塚製薬とアメリカでの共同研究を900万ドルで提携したのである。

大塚製薬といえば、カロリーメイト、オロナミンC、ポカリスエットで有名な会社であり、日本を代表するグローバルな製薬会社である。アメリカ本土で一番初めに出したプレスリリースでは、イメージの悪い【大麻】という言葉は一切使わず、カンナビスからの抽出物という表現にしており、さらに、オピオイド系の鎮痛作用という用語に対して、カンナビノイド系の薬剤という用語を使用し、販売している。

GW製薬は、ベンチャー企業なので研究開発と製造に特化し、医療品の販売はそれぞれの大手企業から販売するという戦略とっている。パートナー企業を見ると、大塚製薬(日本)はアメリカ、世界第1位の製薬会社あるのバルティス(スイス)はアジア、アフリカ、オセアニア、アルミラル(スペイン)社は、ヨーロッパとメキシコ、イプセン(フランス)社は、南アフリカ全域、バイエル(ドイツ)社は、カナダとイギリス、ネオフォーム(イスラエル)社は、イスラエルとパレスチナを販売市場としている。

ここで注目すべきは、中国と日本とロシアに販売権を持つ製薬会社がいないということである。民間企業から見て、大麻に対する拒絶反応が強く、大麻由来医薬品が違法となっている国の法律を変えるのが難しいと思われているのかもしれない。日本の大塚製薬にしても、とりあえず日本の3倍の人口があるアメリカ3億人の市場が先ということで、日本を無視しているのが実態である。

現在GW製薬は販売権を持つ会社とともに各国で違法となっているために輸出や使用規制がある場合、その国の法律を変えるように働きかけて、少しずつ使える国を増やしている。現在では、未承認薬とs亭の販売を含めて28か国ほで販売実績をあげている。2014年度には、経営者・従業員合わせ265名という会社の規模となっており、今後のさらなる飛躍が期待されている。