妊娠期間のカンナビノイド摂取の効果調査をすべきと研究者ら

早急に調べるべき研究課題とは

大麻合法化が叫ばれる昨今、ヒトの胚成長における大麻草の作用に関しては、未だ研究が十分になされていない。そう指摘するのがジョージタウン大学医学部の研究者らである。

この研究者らのチームが「BioMed Central Pharmacology and Toxicology」誌において言及したのが、あるひとつの研究への早急の取り組みの必要性である。その研究とは、母体のカンナビノイド摂取である。

この摂取は、吸入であっても、経口摂取であっても、いかにしてカンナビノイドが妊娠期の身体に影響を及ぼすのかに焦点を当てた実験を意味している。

ヒト妊娠期におけるカンナビノイドの作用

THCやCBDに代表されるカンナビノイドは、大麻草に含まれる化学物質であり、神経系などのカンナビノイド受容体と結合し、神経伝達物質の放出を抑制することもある。

上級研究員であり、ジョージタウン大学で生化学および分子細胞生物学の准教授をつとめるG・イアン・ガリカノ博士は言う。

「妊娠初期における大麻使用が流産、先天性欠損症、発達の遅れや学習障害といった、煙草の喫煙と同様の危険性に関連があることは、これまで数少ない研究からわかっています。しかし、動物研究は薬物の問題点への可能性をも秘めているのです」。

ヒトの胚成長とカンナビノイド

これまでの研究があまりなされていない理由として、大麻草がスケジュールⅠの薬物として指定されてしまっていることが原因であると、ガリカノ博士は指摘する。

「THCや他の化学物質により、胎児は生長期間において途絶されてはならない分子経路を変えてしまいます。実験では、ヒトの成長過程でカンナビノイドが作用することを表しているのがわかります」

THCと胚成長

ジョージタウン大学で、妊娠期に母体がカンナビノイドを摂取することで、ヒトの胚成長にどのような影響が出るかを研究すべきであるという見解が発表されていることに触れた。この見解を公表した研究チームのガリカノ博士は、次のように述べている。

「THCが癌細胞に働きかけて、死滅させることから、癌治療に有望な成分であることは分かっています。胚成長と腫瘍形成というのは、類似点があるんですね。どちらも形成に不可欠な成長経路を刺激するのです。THCは癌細胞の増殖を抑制するわけですから、胎児には当然有害だということになります」。

ガリカノ博士の門下生による文献調査

本研究は、ジョージタウン大学でガリカノ博士が教鞭をとる性発達生殖学コースに在籍する医学生4名(ジョセフ・フリードリヒ、ダラ・カティブ、キオン・パルサ、アリアナ・サントピエトロ)のプロジェクトから発展したものである。

合衆国では4州が嗜好品として大麻が合法化され、24州が医療大麻の使用を認められているものの、妊娠期における薬物使用の影響や、その生物学的メカニズムに及ぼす問題点などについては研究が殆ど行われていないという現状がある。

この医学生4名は、まず1975年から2015年にかけて発表されたカンナビノイドと胚成長についての科学文献を調べ上げ、次のような調査結果を収集した。

1975~2015年で分かっていること

・妊娠期の犬を用いた実験では、THCは数週間に渡り母体内に留まることが分かった。特に母体組織はTHCや他のカンナビノイド類の貯水池として機能することが判明した。ヒトの細胞実験においても、THCは8日間の半減期を経て、最高30日間血中に存在することが分かっている。

・THCはヒトの胎盤を通過し、胎児の成長を遅くする。

・1970年以降、吸引用大麻のTHC濃度は25倍に上がっており、食用大麻よりもかなり強いものとなっている。

・ヒトの胎盤や胚の正常な発達と成長に欠かせないと長い間信じられてきた葉酸(ビタミンB9)を用いて、THCや他のカンナビノイド類は母体に干渉する。葉酸の欠乏は、胎児の出生体重の低下や、流産、脊椎披裂などの神経欠損の原因となる。

・マウス実験において、カンナビノイド信号は胚成長で重要な役割を演じることがわかった。適切な成長や、胚が子宮に運ばれ定着するプロセスにおいて不可欠なのである。

・カンナビノイド信号は、血管の成長や胚細胞、認知能力の発達だけでなく、多くのプロセスにおいて機能する。例を挙げると、重要な神経経路であるBDNFの破裂は、先天性障害(自閉症や低IQ)のリスク増加に関与していることがわかっている。