カンナビノイドが神経細胞に効果的 PART2

パーキンソン病やハンチントン病に医療大麻が使われている

筋肉の緊張を調節したり運動が円滑に行えるよう調節しているのは、大脳の底辺部にある大脳基底核や小脳です。これらの部位の神経細胞が死滅すると、麻痺はなくても運動が円滑に行えなくなります。

大脳基底核は神経の集まりで、線条体、淡蒼球、視床下核、黒質などが含まれます。この大脳基底核の神経の脱落によって起こる疾患にパーキンソン病やハンチントン病があります。これらの病気では、運動がスムーズに行えないための症状が出ます。

パーキンソン病は50歳以降に発症することが多く、手足が震える(震戦)、筋肉がこわばる(固縮)、動作が遅くなる(寡動、無動)、転びやすくなる(姿勢反射障害)といった症状を呈し、徐々に症状が進行していきます。

神経伝達物質のドーパミンを作る中脳の黒質という部分の神経細胞が変性・脱落して発症すると考えられています。黒質の神経細胞は大脳基底核の神経細胞と接続していますが、神経細胞同士の連絡のやり取りにドーパミンが使われています。ドーパミンが十分に作られなくなると、神経細胞同士の連絡に不都合が生じて、運動がスムーズにいかなくなり、前述した特徴的な症状が現われます。

パーキンソン病の日本での有病率は、人口1,000人当たり約一人と言われており、日本全体
で10万人以上の患者さんがいると推定され、高齢化社会の進行に伴って今後ますます患者が増え
ると予想されています。

ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患で、舞踏運動などの不随意運動、精神症状、行動異常、認知障害などの症状が出ます。舞踏運動とは自分の意志に反して運動を行う不随意運動の一つです。脳内の線条体と呼ばれる部分にある細胞が失われることによって発症します。通常は中年期(35歳から50歳)の間に発症し、症状は次第に進んでいきます。

日本人には100万人に5~6人という稀な病気ですが、白人に多く、10万人に5人から10人の割合で存在していると言われています。

パーキンソン病やハンチントン病の治療に医療大麻が用いられて、その臨床効果が報告されています。

このような神経難病の患者さんは、様々な代替医療を利用しています。代替医療というのは、西洋医学が標準的に認めている治療法以外の治療法で、民間療法や伝統医療などが含まれています。医療大麻の使用が許可されている州では大麻も代替医療として利用する患者さんが増えているそうです。

例えば、米国のコロラド州では2000年から医療大麻が使用できるようになり、2012年11月からは嗜好用大麻も許可になっています。

2012年から2013年にかけてパーキンソン病患者207人を対象に調査が行われています。85%の患者が一つ以上の何らかの代替医療(マッサージやビタミン剤など)を利用していました。医療大麻は代替医療としてはまだ少数派で患者の4.3%の利用でしたが、痛み、不眠、不安、抑うつなど非運動性症状の改善効果が高かったと報告されています。

非運動性症状の緩和だけでなく、運動機能の改善効果も報告されています。カンナビノイドは神経細胞を保護する作用があるので、進行を遅くする効果も期待されています。

パーキンソン病ではドーパミンの前駆物質であるレボドパ治療に使われますが、この薬を長期に服用すると興奮、幻覚、妄想、抑うつ、不眠などの精神症状や不随意運動(ジスキネジア)の副作用が出ます。医療大麻がこれらのレボドパの副作用軽減にも有効という報告があります。

THCがアゴニスト(作動薬)として作用するCB1受容体と、カンナビジオールがアゴニストとして作用するイオンチャネルの一種のTRPV1受容体ともに筋肉の緊張亢進や震えを軽減する作用があります。CB1受容体は神経細胞を興奮性毒性から保護する作用があり、CB2受容体は活性化したミクログリアの働きを抑制して神経細胞障害や炎症を軽減する作用があります。カンナビノイドには抗酸化作用もあります。

大脳基底核には、カンナビノイド受容体や内因性カンナビノイドの発現が高いことが知られています。つまり、内因性カンナビノイド・システムが大脳基底核における運動調節に重要な役割を担っています。内因性カンナビノイドを分解する酵素の阻害剤が、これらの運動障害疾患の治療薬として有望視されています。同様に、パーキンソン病やハンチントン病のような運動障害疾患に対して、症状の軽減や進行の抑制に医療大麻の効果が期待されています。

大麻の抗てんかん作用

私たちの大脳では神経細胞がネットワークを形成し、お互いに調和を保ちながら電気的に活動しています。この穏やかな電気的活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れが生じて筋肉のけいれん(痙攣)を起こす病気がてんかん(癲癇)です。

脳の神経細胞が過剰に興奮することによって「てんかん発作」が起こります。「てんかん発作」というのは、てんかんの1回ごとの発作で、多くはけいれんです。けいれんとは、全身または一部の筋肉の不随意で発作的な収縮がおこる症状です。

つまり、てんかんとは、大麻の神経細胞が過剰に興奮するために、筋肉のけいれんが反復的に起こる疾患です。原因は様々で、脳に何らかの障害や傷があることによって起こる症候性てんかんや、原因不明の特発性てんかんなどがあります。

てんかんの罹病率は総人口の約1%と報告されています。つまり100人に1人がてんかんを持っています。3歳以下の発病が最も多く、80%は18歳以前に発病するといわれていますが、最近は高齢者の脳血管障害などによる発病が増えてきています。

神経細胞の異常な興奮を鎮める作用をもった薬(抗てんかん薬)が治療に使われます。薬によっててんかん発作が消失しない場合は、難治性てんかん(薬剤抵抗性てんかん)と呼ばれます。

成人の場合、適切な抗てんかん薬2、3種類を使用し、2年以上治療しても発作が止まらず、日常生活に支障をきたす状態である場合に「難治性てんかん」と呼ばれます。

てんかんがある人の約3割が難治性てんかんと言われています。つまり、薬をきちんと飲んでいても、約3割の患者さんは発作を止めることができていません。薬の副作用が強く出てしまうために、有効な抗てんかん薬を飲めない人もいます。

てんかんの治療には薬物以外にケトン食や手術や迷走神経刺激療法などもありますが、治療に抵抗するてんかん患者さんは多くいます。

てんかん発作が慢性的に続くと、脳が発達する小児期であれば精神・運動機能の発達の障害が起こります。また、難治性てんかんは抗てんかん薬が多剤・大量投与になりやすく、薬剤による副作用(学習障害、行動異常、発達障害)が問題になります。

このような難治性てんかんのもたらす悪影響を防止、あるいは減少させる治療法として、大麻成分のカンナビジオールが注目されています。

医療大麻はてんかんに使用されている

大麻(マリファナ)には抗けいれん作用や鎮静作用があり、筋肉のけいれんやてんかん発作の抑制に効果があることが古くから経験的に知られています。米国では、医療大麻が認可されている州で、てんかんの治療に医療大麻が処方されています。通常の抗てんかん薬が効かない難治性てんかんに医療大麻が有効という報告があります。

しかし、精神変容作用のあるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が多く含まれている場合は、長期の使用や小児への使用には難しいという欠点があります。そこで、注目されているのが大麻草のなかにTHCについで多く含まれるカンナビジオール(CBD)です。

純粋なCBD製剤やCBDを多く含む医療大麻が抗てんかん作用を示し、しかも有害な副作用が無いだけでなく、有益な副作用(気分や睡眠が良好になる、精神活動が活発になるなど)が得られるということで注目されるようになっています。

THCや抗てんかん薬には正常な神経細胞の活動も低下させるため、眠気やふらつきや記憶力低下などの副作用がありますが、カンナビジオールには記憶力や集中力を高めるなど精神活動を良好にする作用があります。

したがって、カンナビジオールを併用することによって、抗てんかん薬の服用量を減らし、それらの副作用を軽減できるということが報告されています。

カンナビジオールの抗てんかん作用

カンナビジオールの抗てんかん作用については動物実験で数多くの報告がありますが、人間での検討はまだ小規模な臨床試験が少数あるのみです。

カンナビジオールを使っている小児の難治性てんかん患者の調査結果が、米国スタンフォード大学の神経科のグループから報告されています。(Epilepsy & Behavior,29(3),574~577.2013年)

生後数年以内に始まるような小児のてんかんは、治療に抵抗性を示すことが多いのが特徴です。重度の小児てんかんは、頻回のけいれん発作と中枢神経系の発達障害と生活の質の低下が見られます。

このような治療抵抗性の小児てんかんに対して、家族は様々な代替医療を探しています。そのようなてんかんの代替医療の一つとして、カンナビジオールが最近注目されています。

この調査では、治療抵抗性のてんかんの小児に、カンナビジオールを高濃度に含む大麻を使用している親から情報を得ています。

「てんかんの診断とカンナビジオール高含有大麻の使用」という調査の選択基準を満たしたのは19例でした。

ドラベ(Dravet)症候群が13例、Doose症候群が4例、Lennox-Gastaut症候群が1例、原因不明(特発性)のてんかんが1例でした。

カンナビジオール高含有大麻を使用する前に治療に使われた抗てんかん薬の数の平均は12種類でした。

19例のうち16例(84%)の小児てんかん患者の親は、カンナビジオール高含有大麻を使用している間はけいれん発作の頻度が減少したと回答しました。このうち2例は、4ヶ月間以上のカンナビジオールの服用で完全に発作が起こらなくなりました。

8例(42%)はけいれん発作の頻度が80%以上の減少を認め、6例(32%)はけいれん発作の頻度が25~60%の減少を認めたという結果でした。3例にはてんかん発作の頻度に変化はありませんでした。12例はカンナビジオールの服用を開始してから、抗てんかん薬の服用量を減らしていくことができました。

けいれん発作の減少以外の有益な効果として、気分が良くなった(15/19.79%)、集中力や注意力など精神活動の向上(14/19.74%)、睡眠が良くなった(13/19.68%)、が認められました。

副作用として眠気(7/19.37%)、と倦怠感(3/19.16%)が認められました。

他の抗てんかん薬を服用しているときは、発疹、嘔吐、興奮性、めまい、錯乱、攻撃的行動などの副作用がみられましたが、カンナビジオール高含有量大麻の使用ではこのような副作用は認められませんでした。

この報告におけるカンナビジオールの投与量は1日に体重1kg当たり 0.5~28.6mgと大きな幅がありますが、多くは 4~10mg程度です。THCも微量に含まれていますが、その量は1日に体重1kg当たり 0~0.8mgとごくわずかです。

この結果は非常に驚くべきものです。というのは、この調査で最も多いドラベ(Dravet)症候群のてんかんは非常に難治性で、多くの抗てんかん薬やケトン食でもてんかん発作を減少させることは困難な病気です。このドラベ症候群のてんかん発作に対して非常に高い有効性を示しています。

実際、この調査でも、平均12種類の抗てんかん薬が無効であって症例を対象にして、80%以上の症例で明らかな発作の減少を認めています。しかも、悪い副作用が少なく、症状の改善効果や認知機能や気分を良くする効果などを認めています。このような有益な副作用は他の抗けいれん薬では見られません。

つまり、治療抵抗性の小児のてんかんにカンナビジオールを多く含む大麻製品を積極的に試してみる価値は十分にありそうです。

カンナビジオールの抗てんかん作用

大麻草は約80種類のカンナビノイド(大麻草に含まれる成分の総称)を含み、そのうちΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)の2つが、最も含有量の多いカンナビノイドです。

そして、この2つのカンナビノイドは全く異なる薬効を示します。最も重要な違いは、THCには精神変容作用(陶酔作用や気分の高揚や多幸感など)があり、カンナビジオールにはそのような精神作用は無い点です。精神作用はカンナビノイド受容体のCB1を介して起こりますが、THCはCB1を活性化し、CBDはCB1には作用しないからです。

近年、大麻の医療目的での使用が注目されるようになりましたが、特にカンナビジオールの薬理作用や臨床的効果の検討が増えています。その理由は、カンナビジオールには精神作用が無い点と、実際に病気の治療に使って有効性が報告されるようになったからです。そのため、まだ医療大麻を許可していない27の州のうち13州では、THC含有が少ないカンナビジオール主体の製品の使用が許可されています。

米国では医療大麻が許可されている州が増えていますが、このような医療大麻が使用できるところでは、THCを含む大麻からカンナビジオールを摂取することが主になります。

しかし、THCは発達途上の小児の脳の発育を阻害し、認知機能を低下させることが明らかになっています。さらに、THCはてんかん患者の脳に対して、けいれん発作を誘発する作用があります。

一方、カンナビジオールは、精神作用は全く無く、てんかんの様々な動物実験モデルによる多くの検討で、抗けいれん作用が明らかになっています。

人間においては、治療抵抗性てんかんの成人を対象にした精製カンナビジオールの治療効果を検討した小規模な二重盲検プレセボ比較試験が件あるだけです。

一つは1978年の報告で、9例のてんかん患者で、カンナビジオールを1日200mg投与する群(4例)とプラセボ群(5例)に無作為に分けて検討しています。3ヶ月の試験で、プラセボ(偽薬)を投与された5例ではてんかん発作の頻度は不変でしたが、カンナビジオールの投与を受けた4例中2例はけいれん発作が完全に止まりました。

もう一つの臨床試験の結果は1980年の報告で、15例の治療抵抗性の成人てんかん患者をプラセボ群(7例)と精製カンナビジオール(1日400mg)投与群(8例)に無作為に分けて18週間の経過を検討しています。

カンナビジオールの投与を受けた8例のうち、4例はてんかん発作の顕著な減少を認め、残りの3例でもてんかん発作の部分的な減少を認めています。一方、プラセボ群では、7例中1例にてんかん発作の部分的な減少を認めただけでした。

精製したカンナビジオールの投与による副作用として最も多いのは眠気でした。精神変容作用はどの患者にも認められていません。

しかし、1986年に報告された非盲検試験では、1日200mgの精製カンナビジオールを12例投与しても、てんかん発作の頻度は減少しなかった、という有効性を否定する報告もあります。

しかし、純粋なカンナビジオール(CBD)の薬効範囲は非常に狭く、少なくても多すぎても効果が減弱し、薬効の用量反応曲線が釣鐘状を示すことが報告されています。一方、CBDを多く含む大麻製剤の場合は、CBDの薬効が用量に依存して高くなることが報告されています。純粋なCBD製剤でなく、CBD含量の多い医療大麻の有効性が指摘されています。

銀座東京クリニック

出典:医療大麻の真実