医療大麻はいつから始まったのか?

1830年代に英国で大麻の医療利用が始まった

インド大麻草の医療応用について、西洋への紹介はインドのカルカッタにいたアイルランド人医師のウィリアム・オショーネッシー(W.B.O’Shaughnessy)博士によって1839年になされました。

彼はインド医学で大麻が使用されることを知り、その効果と安全性を確かめる動物実験を行い、大麻が極めて安全な薬であることを確認しています。つまり、動物実験で用量を増やしていっても死に至ることは無かったのです。そして、患者に使用し、鎮痛作用や鎮静作用や抗けいれん作用を確認しています。

彼は、破傷風や狂犬病による筋肉の硬直が大麻によって軽減することを経験しています。さらに、コレラ患者の死亡原因となる下痢と嘔吐を大麻チンキが軽減することも確かめています。この1839年の報告が、大麻の抗嘔吐作用に関する西洋医学における最初の記述になっています。

19世紀の医学において、破傷風や狂犬病やコレラは有効な治療法の無い難病でした。これらの疾患の治療に有効な薬として、大麻がオショーネッシーによってヨーロッパに紹介されたのです。

1942年にオショーネッシーは英国に大麻を持ち帰り、薬効のある大麻抽出物が出回るようになると、英国の医学会では大麻の治療効果が注目されるようになりました。英国薬局方には大麻抽出物と大麻チンキが掲載され、以後100年以上にわたって様々な病気の治療に使われました。

1843年の論文にインド大麻草が病気に有効であった18症例の報告が記載されています。この論文のタイトルは日本語に訳すと「インド大麻草の薬効成分の報告」(Med Chir Trans.26:188.210.1843年)で、著者はロンドンの聖メリルボーン診療所(St.Marylebone Infirmary)の医師のグレンディニング(John clendinning)博士です。

英国のビィクトリア女王の主治医であったラッセル・レイノルズ(Russell Reynolds)博士は女王の生理痛の治療に大麻を使用し、効果があったことを1890年に記述しています。レイノルズ博士は大麻を不眠.神経痛、月経困難症(生理痛)の治療薬として推奨しています。レイノルズ博士は「大麻は自分が知る薬の中で最も有用なもの」と言っています。

このような大麻の医療効果に関する報告は、ヨーロッパやアメリカで1840年代から1900年にかけて100以上の論文で発表されています。いずれも、大麻の医療用途に関する報告です。

大麻は、気管支拡張、抗けいれん、眼内圧低下、抗がん作用、鎮静睡眠、鎮痛、抗不安、抗うつ、吐き気止めなどの作用があります。そのため喘息、緑内障、悪性腫瘍、てんかん、多発性硬化症、脊髄損傷、筋肉のけいれん、関節リュウマチ、食欲低下、不眠、抑うつ、不安、吐き気など様々な症状や病気に有効性が示されています。

米国では大手製薬会社が大麻製剤を製造していた

米国の規制物質法(Controlled Substances Act)では、大麻はヘロインと同じスケジュールⅠに分類されています。スケジュールⅠは「濫用の危険があり、医学的用途が無い」物質です。

なぜこのようなことになったのかは謎です。大麻に医療効果があることは古くから知られており、最近の科学的研究でも大麻が病気の治療に極めて有効であることが明らかになっているからです。

米国でも古くから大麻の医療利用が行われていました。

1840年代からマリファナはアメリカでもっとも人気のある鎮痛剤であり、1842年から1900年までの間、大麻草は全ての医薬品の半分を占めていたそうです。

1860年にはオハイオ州医学会が米国で最初の医療大麻に関する研究会を開き、胃痛、産後精神病、慢性の咳、淋病、他様々な疼痛性疾患に有効であることが報告されています。

1850年から1937年まで、アメリカ薬局方は大麻草を100種類以上の疾病に効く主要な医薬品として記載しています。

1868年版の米国薬局方には、大麻チンキの医学的特性について4ページを費やして記述しています。大麻が性欲や食欲を増進し、神経的興奮を和らげ、痛みやけいれんを抑えることが明記されています。使用が推奨される疾患として、神経痛、痛風、破傷風、狂犬病、コレラ、けいれん、舞踏病、ヒステリー、抑うつ、精神病、子宮出血なおが挙げられ、出産後の子宮収縮の促進効果も記載されています。

このように、米国では長い間、大麻による医療上の恩恵を受けており、多数の大手製薬会社が医療用の大麻製剤を製造していました。

戦前まで日本薬局方でも大麻製剤が収載されていた

日本でも、第二次世界大戦直後まで大麻製剤があり、「印度大麻草チンキ」や「印度大麻草エキス」などの名前で薬局で販売されていました。

チンキ剤とは生薬をエタノールまたエタノールと水の混液で浸出して製造した液剤です。

日本薬局方は、薬事法第41条により、医薬品の性状及び品質の適性を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書です。初版は明治19年(1886年)6月に公布され、医薬品の開発や試験技術の向上に伴って改訂が重ねられています。現在では5年に一度改正されています。

日本薬局方では印度大麻や印度大麻エキスとして第5局まで収載されていましたが、1948年に大麻取締法が公布されたため、第6曲(1951年改正)以降は削除されています。

現在では日本薬局方に収載されていませんが、かつては収載されていたということは、その時代には繁用される医薬品であったことを意味します。

非科学的根拠で大麻の医療用途が否定された

米国では1930年代まで、医薬品として医師が普通に大麻製剤を処方していたのですが、1937年にマリファナ課税法(実質的にはマリファナ禁止法)の施行によって、米国では大麻の医療応用や研究は制限されるようになります。

世界保健機関による麻薬単一条約(1961年制定、日本は1964年に加盟)や日本では大麻取締法(1948年制定)によって医療への利用も禁止されています。世界中のほぼ全ての国で大麻は非合法化されています。その主な理由は、カンナビノイドの主要な成分であるΔ9-テトラヒドロカンビノール(THC)に陶酔作用などの精神作用があり麻薬として規制されているためです。

1970年に米国で制定された規制物質法(Controlled Substances Act)では大麻(マリファナ)はヘロインやLSDと同じスケジュールⅠに分類されています。

この法律では、規制薬物はその取扱いのレベルでスケジュールⅠからⅤの5段階に分類されており、スケジュールⅠは医学的用途が無く、濫用の危険があり、安全性の証拠が無いとされるもので、スケジュールⅠ物質は処方箋に書かれることは無いのが原則です。

スケジュールⅡは濫用の危険はあるが医学的用途が認められる薬物となるので、医療応用が合法になります。モルヒネなどのオピオイドはスケジュールⅡに分類されているので、依存や中毒や濫用の危険はありますが、処方薬として使用が許可されています。

1976年のフォード政権時には「薬物乱用に関する全米学会」(NIDA)とアメリカ麻薬取締局(DEA)が、大学機関や連邦保健機関が大麻草を研究することを事実上禁止し、医薬品として天然の大麻草由来の抽出液の類いを研究することも禁じました。

しかし1988年、アメリカ麻薬取締局の行政判事であったフランシス・ヤングが大麻の医療効果を認めました。数年間の法的な論争の後、麻薬取締局は、大麻をスケジュールⅡの分類に変更することに関して広範囲な調査を行いました。

その結果、ヤングは「調査で得られた証拠に基づいて考えると、病気で苦しむ人が大麻の効能を利用することを麻薬取締局が阻害することは、不合理で、独断的で、必要の無いものである」という結論に達し、「マリファナは人間の知る限り、最も安全にして治療に有効な物質である」と述べています。

それにもかかわらず、麻薬取締局(DEA)は大麻をスケジュールⅡに変更すべきだというその判事の命令を無視し、1992年には大麻のスケジュールⅡへの変更に関する全ての要求を拒否する最終結論を発表しました。連邦法では大麻の所持や使用は今でも禁止になっており、麻薬取締局は大麻草がスケジュールⅠの麻薬指定であることを理由に医療応用を禁止し続けています。

しかし、1990年代に入って、大麻成分のカンナビノイドが結合する受容体や、内因性カンナビノイド・システムの存在が明らかになり、大麻の医療効果が証明され、効果の高い医薬品として再認識されるようになりました。研究が進むと、医療効果があるという事実の他に、毒性が低く、麻薬作用もそれほど強くないという研究結果も出てきました。それにより、欧米では大麻の医療利用を合法化する国が増えてきました。

米国では住民投票によって州法で医療大麻の使用が認められた

緑内障の患者のロバート・ランドール(Robert Randall)氏は自身の病気の治療の目的で大麻を栽培していて1975年に逮捕されました。しかしランドール氏は医療上の必要性を主張
し、1976年に連邦裁判所は「ランドール氏の緑内障にはほかに有効な治療の方法が無く、大麻喫煙による副作用も認められない。被告人に医療使用を禁じる医学的根拠は無い」という判決を出して、ランドール氏への訴追は取り下げられました。逆に1978年にランドール氏が食品医薬品局(FDA)や法務局などを訴えましたが、和解となり、連邦当局はランドール氏に公認の医療大麻の供給を始めました。これが米国での1937年の大麻禁止法以降で最初の医療大麻の合法的な使用となりました。

前述のように1980年代にエイズが流行したとき、エイズ患者たちは大麻が痛みを和らげてくれることを経験的に知るようになりました。その後、痛みと筋けいれんを引き起こす脊髄損傷患者や多発性硬化症に苦しむ人々にも使われるようになりました。

このようにして、医療大麻の必要性が次第に認知されるようになっていき、州によって大麻の医療使用や娯楽使用が許可されるようになってきました。

1996年11月5日、カリファルニア州では住民投票で医療大麻の使用が認められ、その後、2015年の時点で23州と首都ワシントンDCで医療大麻の使用が許可されています。

大麻が許可される州は今後も増えると考えられています。嗜好用大麻の使用を合法化した州もあります。

州法で許可されても、アメリカ合衆国の連邦法では、今でも大麻の所持も医療目的での使用も認めていません。米国の規制物質法では、大麻はヘロインと同じスケジュールⅠに分類されているからです。スケジュールⅠは「濫用の危険があり、医学的用途が無い物質」です。どのような理由でも使用できない物質に分類されていどのような理由でも使用できない物質に分類されているのです。

しかし、州法で使用が認められた州では、「医師による適切な医療大麻の使用を麻薬取締局など連邦政府は禁止できない」、「禁止する行為は憲法違反」という判決が出ており、医療大麻の使用が可能になっています。

出典:医療大麻の真実