大麻の法医学的検査

1990年代の成長産業

大麻は効力のある薬物であり、血中やそのほかの体液中のTHCやTHC代謝物の濃度はきわめて低い。
アルコールはかなり高濃度で使われているため、血液や域に含まれる量を測定しやすいが、大麻の測定は技術的にアルコールの場合よりはるかに難しいことがわかっている。1980年代まで血液か尿のサンプルを濃縮し、複雑なクロマトグラフ分析装置を使ってサンプル中のTHCの量を測定する方法しかなかったが、こうした問題も免疫学的検定キットが開発されたことによって解決された。

検定キットはTHCやTHC代謝物が動物の免疫系を刺激し、THCやその主たる代謝物(カルボキシ-THC)を識別する抗体を生成させる原理を利用したものである。抗体はきわめて低い濃度でも薬物を識別するため、試薬として利用することができる。

抗体がTHCやカルボキシ-THCと結合すると蛍光色に変わる色彩反応を示すか、放射性トレーサー(放射性同位体によって標識付けされた物質)に置き換わるので、これを測定するのである。尿を使って大麻検査を行う市販用キットが発売されたことで、この検査法が一般に普及するようになった。

現在では道路交通事故にかかわった人たちや病院の緊急治療室に運び込まれた人たちに対して、大麻などのさまざまな精神活性薬を使用しているかどうか検査するのが常識となっている。道路交通事故に巻き込まれたり病院の緊急治療室に運び込まれたりした人はかなりの割合で陽性と出ることがわかって以来、このデータは大麻の危険に警鐘を鳴らす事実のひとつとして、かなり広く知れ渡るようになっている。

だがこのデータを使って警告を行う人たちは、大麻の使用がすでに広範囲に及んでいる事実を見落としている。検査では歳暮に薬物を使用してからかなり時間がたったあとでも陽性と出るため、多くの人が陽性と診断されても別段驚くにはあたらないのである。職場での薬物検査についても、とりわけ米国では広範に行われるようになっている。

米国では大麻について陰性と診断されるとその結果は深刻になることが多く、大麻療法プログラムに登録され、薬物使用をやめるか職を失うかの選択を迫られることになる。

THCが体内に長い時間とどまるため、大麻検査では使用者の陶酔状態について信頼に足るデータを出すことができない。一般に尿にカルボキシ-THCが50ng/ml(ngはナノグラム、1ngは10億分の1g)の濃度で検出されると陽性と診断される。しかしこのレベルは、薬物を最後に使用してから数日経っても、場合によっては数週間たっても検出されうるものである。

カルボキシ-THCの不変化THCへの転換率を測定することによって、最後に薬物を摂ってからどのくらい経っているのかについて、ある程度の情報を得ることができる。転換率は時間とともに増大するからである。だがこの測定法では、血液や域に含まれるアルコールの量を測定する場合ほどには価値あるデータを得ることができない。

アルコール検査では、検査時点の飲酒者の陶酔状態についてはるかに正確な測定値を出すことが可能である。新技術のガスクロマトグラフィーと質量分析を組み合わせて法医学的検査は、微量のTHCを探知することができる一層高感度の検査方法といえる。

1ng/mlかそれ以下のレベルでもたやすく探知することができるからである。この技術は髪の毛に含まれている薬物の分析にも応用することができ、髪の毛には伸びてからでも長期的、微量の薬物が残存することから、検査対象者が薬物の慢性使用者かどうかを判定することができる。

出典:マリファナの科学