マリファナ吸引と肺癌

マリファナ吸引と肺癌

テトラヒドロカンナビノールには発がん性はないものと思われているが、マリファナの煙に含まれるタールに発がん性があるという証拠は数多く認められる。

発がん性を調べる際に標準的に用いられるエームス試験では、マリファナのタールにさらしたバクテリアに突然変異が起こり、組織培養中のハムスターの肺細胞では、タバコかマリファナの煙にさらすと3~6ヶ月以内に悪性転換が促進されるという結果が示されている。マウスの皮膚にマリファナのタールを塗りつけたケースでも、前がん病変につながっている。だがこうした現象がマリファナ吸引者の肺に起こるという証拠は、はたしてあるのかだろうか。

タシュキンが行った1987年の試験の一環として、期間に損傷があるかどうかを調べるために一部の被験者に対してさらにくわしく検査が実施された。気管支鏡を使った大気道の目視試験では、マリファナ吸引者とタバコ喫煙者の大部分のケースで非喫煙者に比べると赤みや膨らみが著しく、粘液の生成量が多いことがわかった。気道の上皮から微量の組織(生体組織)を摘出することによって、顕微鏡による検査が可能になる。顕微鏡検査の結果、マリファナ吸引者によって報告された慢性の咳や痰(タン)の異常生成を説明するものと考えられる。

さらに深刻なのは、タバコ喫煙者やマリファナ吸引者の肺に、通常皮膚に見られる細胞に似た異常細胞(扁平上皮化生)が観察されたことである。この変化は肺がんの前触れとなる前がん状態を示すものと考えることができる。マリファナとタバコを両方吸う被験者の肺には、この前癌細胞と思しきものがいっそう多く認められている。

最近になってタシュキンとその仲間はこの研究の規模を拡大し、マリファナ吸引者とタバコ喫煙者の肺の生体組織を使い、その細胞が正常な肺細胞ががん細胞に変わるさいに活性化する特定の遺伝子を発現させるかどうかを調べている。正常な肺細胞が癌細胞に変わる過程は複雑で、細胞の成長や増殖を制御するさまざまな遺伝子の作動を必要としている。

試験の結果、マリファナ吸引者やタバコ喫煙者の肺では、上皮成長因子の受容体を制御する遺伝子の異常発現や、細胞分裂をあずかるKI-67と呼ばれる核拡散蛋白質の異常発現が見られたことを報告している。CYP1A1は肝臓やその他の組織で薬剤の代謝をあずかる酵素グループ、シトクロムP-450族のひとつである。

酵素CYP1A1の意味するところは、これがタバコの煙に含まれているベンツピレンを非常に強力な発がん性物質に変えるさいに重要な役割を果たすことで知られている点である。だが肺がんの75%のケースで一定の役割をはたすことが知られている癌遺伝子p53は、マリファナとタバコを両方吸う単独患者(対照を用いずに原則としてひとりの患者を試験対象とするケース)の一例を除いて、活性化しなかった。

ここで観察される変化が憂慮すべきなのは、これらの変化がマリファナ吸引者の肺にタバコ喫煙者の場合と似通った一連の前がん性の変化が起こったことを示し、この前がん性の変化が肺がんを発症する可能性を著しく高める結果につながるかもしれないからである。

タバコ喫煙と肺がん

タバコ喫煙と肺がんとのつながりが発見されたことは、20世紀の医学研究のもっとも大きな実績のひとつといえるだろう。1950年、英国と米国からもたらされた最初の報告は、2つのきわめて大がかかりな症例対照試験にもとづくものであった。その後多数の喫煙者と非喫煙者を対象にした追跡研究によって、さらに多くのことがわかるようになった。

追跡研究のひとつは、英国の全医師を対象に喫煙習慣を尋ねるものであった。合計4万人以上の医師が、喫煙習慣が健康に及ぼす影響を調べる長期的な調査に加わることに同意している。1951年に関しされた研究やドールらの研究(1994)では、このグループを40年間にわたって追跡検査した結果が公表されている。

結果は驚くべきものであった。タバコ喫煙者では肺がんで死亡する危険が高まるだけではなく、口や喉、喉頭、膵臓、膀胱のがんや、喘息や気腫などの閉塞性肺疾患といった都合23に及ぶそのほかの原因で死亡する危険も高くなっていたのである。

患者は以下のように結論づけている。

この研究の前半の20年間や、同じ時期に行われたほかの研究の結果では、タバコの長期使用による危険がかなり過小評価されている。現在では、習慣的にタバコを吸う人間のうち約半数までが、結果的に喫煙習慣がもとで死亡することになると見られている。

現代の避けられう死因の主だったものとして、タバコ喫煙の重要性を過大評価しすぎることはありえない。単一の原因のどれよりも多くの人がタバコ喫煙がもとで死亡しているものである。世界的に見ると年間300万件前後の死亡がタバコに起因するもとの見られ、この数値は今後30~40年のついに年間1000万件にまで跳ね上がるものと見られている。

先進国ではタバコは男性の死因の4分の1近く、女性の死因の17%を占めている。発展途上国の喫煙習慣は20世紀に追いつきそうな勢いを見せている。中国で最近行われた研究では100万件以上の死亡例が分析されているが、そこでは驚くべき予測が行われている。中国のタバコ喫煙はつい最近劇的に広がり、数値にして1980年以降ほとんど4倍に達している。

25歳以上の約3分の2が喫煙し、その約半数が人生半ばにして死亡すると見られている。

世界各国で医療大麻を活用している人にとっても重量な資料となるものの、重篤な方にとって肺がんになるリスクよりも今ある症状を改善や緩和することを優先させることは間違いない。万人にとってイコールではないのだ。