マリファナ吸引の危険性

伝統的に見ると、東洋医学でも西洋医学でも大麻は経口で服用されるのが常識であったが、現在の医療大麻を摂取している人のほとんどの場合にマリファナの煙を吸引するのが支流になっている。吸引は晴雨かくに軽量されたTHCを投与する手段として極めて効果的だが、残念ながらこれには特別な危険もともなう。THC自体は比較的安全な薬物と思われるが、ことマリファナの煙に関しては事情が異なるのである。

マリファナの煙と吸引の方法

マリファナの木無理がもたらす効果についての研究例は比較的少ないが、タバコの煙に含まれる毒性成分やその生物学的効果については既に多くのことが知られている。マリファナの煙はその科学組成においてタバコの煙と非常に似通っており、タバコの危険に関する知識が吸引マリファナの毛金を予測する助けになると考えても不合理とは言えない。

燃焼中のタバコは「小型化学工場」と言われている。乾燥した原料に含まれる多量の化学成分に加え、何百種類もの付加的物質が燃焼中に生成される。タバコの煙では6000種類以上の化学成分の存在が突き止められており、さらにこれより何千種類も多い化学成分が微量だが存在している。

タバコの煙の組成は原料の年少のし方によって大きく変わってくる。例えば、包み紙の性質によって燃焼特性が変わり、その結果煙の化学組成も変わってくる。同じ理屈がマリファナにも当てはまると考えるのは、根拠のないことではない。

煙は2種類の成分ー微粒子相の微細な水滴と、蒸気相のさまざまな揮発性物質やガスからなる。タバコの場合もマリファナの場合も吸いたての煙の全重量の約10%が微粒子相のかたちをとり、ここに活性成分(ニコチンまたはTHC)のほとんどが含まれている。微粒子相は直径25万分の1m以下の濃縮液体からなる微細な水滴で、煙1mlあたり50億個に達する。

マリファナでもタバコでも、蒸気相と微粒子相双方に数多くの毒性物質が含まれ、そのうちのいくつかはがんを引き起こす恐れがある発がん性物質として知られている。一部の報告ではタバコの煙に含まれる最も強力とされる発がん性物質、ベンズアントラセンとベンツピレンが、マリファナの煙の中にさらに多量に含まれていることが示されている。ただし、別の測定結果では、この発がん性物質の含有量が両者ともほぼ同量であるとされている。

熟練者の吸い方は、マリファナ吸引者は通常、タバコ喫煙者よりも深く吹い込み、THCのはいへの吸収量を高めようとしてしばらくの間、息を止める傾向がある。(実際には、1回の吸引量と息を止める時間を体系的にさまざまに変えた試験によって、深く吸い込む方がTHCの吸引量を増やす結果になるものの、数秒以上息を止めてもほとんど効果がないことがわかっている。マリファナ吸引者の吸い方は、事実よりむしろ文化的な俗説にもとづいているものを思われる。)

こうした吸い方の違いがもたらす結果はきわめて深刻である。日常的にタバコとマリファナを吸う15名のボランティアを対象に、吸引時に吸引される微粒子状物質(タール)と一酸化炭素の量を企画している。同じサイズのフィルター付きタバコのとマリファナ煙草を1本ずつ吸ったあと、それぞれの結果が比較された。タバコ喫煙の場合に比べると、マリファナ吸引では一酸化炭素の吸収量は5倍、肺に取り込まれるタールの量は4~5倍に達していた。

THCの含有量によってマリファナの吸い方がどう変わるかを調べる試験も、数多く行われている。予想にたがわず、熟練者はマリファナ煙草の光量が強いとされているか弱いとされているかに関係なく、自分が望むハイ(精神的高揚)に達するために吸い方を自動的に調整している。効力の強いマリファナ煙草を吸う場合、総吸引量は小さくなり、タールの吸収量もはるかに小さくなる。

結論としては、習慣的にマリファナを吸うものはTHC含有量の高いマリファナ煙草を使うことによって健康上の危険を小さくするこtができるといえそうだ。今後、タール生成量の少ない新種の大麻の開発や、タールの量を肺に達する前に減らすフィルターその他の特殊装置の利用なども考えられる。このどちらの方法についても、体系的な調査はこれまで行われていないようである。

マリファナの煙が肺にもたらす影響

煙草の煙は、慢性の閉塞性肺疾患や肺がんを引き起こすもっとも大きな原因と知られている。そこで、マリファナの煙による肺への悪影響についても考えてみる。実験動物にマリファナの煙を吸わせることによってこの問題を解明しようとした試みは数多い。毎日、最大30ヶ月までマリファナの煙を吸わせた結果、ラットやイヌ、猿の肺に著しい損傷が認められたが、この実験結果をそのまま人間のケースに当てはめるわけにはいかない。

人間がマリファナを吸引するスタイルを動物モデルで再現することは困難、または不可能だからである。その意味では人間のマリファナ吸引者を対象にしたさまざまな試験ははるかに意義深いように思えるが、ここで問題を複雑にしているのは多くのマリファナ吸引者が同時にタバコも吸い、そのためにマリファナとタバコ、それぞれの効果の識別が難しくなっているという事実である。カリフォルニア・ロサンゼルス大学医学部のドナルド・タシュキン教授とその仲間は、10年以上にわたってこの分野で先導的役割を果たしてきた。

1970年代に行われた数々の試験はマリファナ吸引と慢性気管支炎の関係を示しているものの、被験者の数が少なく、問題を複雑にしている大きな要素がであるタバコ喫煙についての対照(比較対象とするブループ)が欠落している。1987年、タシュキンはマリファナだけを大量に吸引する144名のボタンティアがタバコとマリファナを両方吸う135名、タバコのみを吸う70名、どちらも吸わない97名の被験者と比較された。

マリファナ吸引者が1日に3~4本吸うだけなのに対して、タバコ喫煙者の1日の喫煙は20本以上に及んでいたが、両者ともに約20%の割合で慢性気管支炎の症状(慢性の咳)が報告されている。この試験でマリファナとタバコを両方吸う被験者に相加作用は見られなかったが、同じタイプの別の研究では相加作用が報告されている。

タシュキンは10年後、同じ被験者を対象に追跡調査を行っている。その結果、タバコ喫煙者の肺機能が10年にわたって悪化を続け、特に小気道で悪化が著しく、その後慢性の閉塞性肺疾患にかかる可能性が大きくなっていることがわかった。だがこうした傾向はマリファナ吸引者には認められず、マリファナ吸引がもとで気腫のような疾患にかかる可能性は小さいことがほのめかす結果となっている。

マリファナの大量吸引者268名を対象にオーストラリアで行われた研究も、これと同じような結論に達している。平均して19年間、習慣的にマリファナを吸引した被験者の場合、一般の日撮った地に比べて喘息や気腫の罹患率が低いことがわかったのである。

カリフォルニアのカイザー常設健康管理協会では、毎日マリファナを吸うがタバコは吸わない452名と両方とも全く吸わない450名を丹念に比較した結果、マリファナ吸引者では呼吸器疾患で外来患者として通院する危険の増加率が低く抑えられていることを明らかにしている。

タシュキンによるロサンゼルスでの試験の被験者の一部を対象にして、白血球の個数を調べるために生理食塩水による肺の洗浄処理が行われている。白血球は免疫系の戦士ともいえる存在で、組織が炎症を起こしたり損なわれたりした部位に引き寄せられ、体内に侵入した感染性微生物を殺したり除去したり、また損なわれた細胞や死んだ細胞、組織の残骸を取り除いたりする助けとなっている。

マクロファージと呼ばれる大型の白血球はとくに重要な掃除役をはたし、侵入したバクテリアや金を飲み込んだり殺したり、損傷を受けた組織を取り除いたりする働きがある。タバコ喫煙者やマリファナ吸引者の肺からは非喫煙者に比べて約2~3倍のマクロファージが採取され、この部位に炎症反応が起こったことがわかる。またタバコ喫煙者やマリファナ吸引者のマクロファージでは、菌(カンジダ、アルビカンス)やバクテリア(黄色ブドウ球菌)を殺したり飲み込んだりする能力が著しく損なわれていることがわかった。

さらにタバコ喫煙者やマリファナ吸引者のマクロファージでは、通常体内に侵入した微生物を殺すのに使わられている毒性物質の一部(たとえば、スーパーオキシド)や、さらに炎症反応や免疫系反応を活性化させる助けとなるサイトカインと呼ばれる化学物質を生成する能力が低減していた。加えてこれらのマクロファージでは、生体外でがん細胞(小細胞がん)を攻撃し、殺す能力が損なわれていた。

これらの試験結果は動物実験によって裏づけられ、生体外でマクロファージがマリファナの煙を吸わせると、エアロゾルによって肺に送り込みれたバクテリア(黄色ブドウ球菌)を非活性化させる能力が損なわれる結果が示されている。また、動物実験では、免疫防御システムに対するマリファナの煙の毒性作用がTHCによるものではなく、マリファナの煙に含まれるほかの成分いよるものだということも判明している。THCを除去した大麻を燃やした煙にも毒性が認められたからである。

これらの実験結果はタバコ喫煙者と同様、マリファナ吸引者の場合にも気道感染に対する感受性が高まる傾向があり、肺がんの進行を妨げる能力が損なわれる可能性があることを示している。さらに問題を複雑にしているのは、大麻の一部の肺感染症を引き起こす菌(たとえば、アルペルギルス種)が付着している場合があるという事実である。これは免疫防御システムがすでに損なわれているエイズ患者にとっては、とくに脅威となる点がいえよう。

同じく懸念されるのは、米国産大麻の一部に除草剤のパラコートが付着している危険である。(現在は水耕栽培が支流になっているため土壌から除草剤などの残留農薬の心配性はない)米国政府が大麻生産を撲滅するために同国内やメキシコで使うパラコートは、肺に対する強い毒性作用があり、生命を脅かしうる炎症や充血症状を引き起こす。幸いこの危険は何年か前に比べると小さくなっているようだ。

出典:マリファナの科学